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クレイマー、クレイマーのEyesworthのレビュー・感想・評価

クレイマー、クレイマー(1979年製作の映画)
4.9
【妻の目覚めと夫の目覚め】

ロバート・ベントン監督×ダスティン・ホフマン主演×メリル・ストリープ助演のファミリードラマ。1980年のアカデミー作品賞、ロバートが監督賞・脚色賞、ダスティンが主演男優賞、メリルが助演女優賞と5部門で輝かしい戴冠を成し遂げる。

〈あらすじ〉
結婚8年目にして、自立を決意した妻ジョアンナ(メリル・ストリープ)に家を出ていかれた仕事一筋のテッド・クレイマー(ダスティン・ホフマン)それまで家庭を顧みることのなかった彼は、7歳のひとり息子を抱えて家事と仕事の両立に追われることになる。そして新たな生活に四苦八苦しながらも2人が親子の絆を深めていたある日、ジョアンナが突然、子の養育権を訴え出る。失業者となっていた彼に不利な形で裁判は進み、やがて彼は息子と一緒に過ごせる最後の朝を迎える…。

〈所感〉
大学の楽単で映画を見るだけの最高の授業があって、その時に初めて見た。恥ずかしながら、どこかでおっぱい丸出しのシーンがあって授業中におっぱい見れて興奮したなぁくらいしか覚えてなかった。大学生とはいえガキだったなぁ。現代じゃありふれた夫婦問題の話だし、教授がこの映画を通じて何を伝えたかったのか、当時の尻の青い自分には全くわからなかった。けれど、今見返すとめちゃくちゃハートフルで過程から結末も含めとても良い映画だという事に気づく。序盤のフレンチトーストもろくに作れなかったテッドが年中無休の大変な育児・家事の経験を経て、ラストでは手際よく作れるようになってるのが何よりの成長の証だ。メリル・ストリープ演じるジョアンナも最初の別れを告げるシーンから終始目的を果たすためにはどんなことでもするような覚醒した妻の目覚めが恐ろしかったが、裁判の終わりに際して、敵視している夫に詫びたり、妻の顔と母の顔を取り戻していくのが良かった。見ている間はクソ女め!と腹立たしかったが、ただの身勝手な女性ではないこともよくわかる。私の中でメリル・ストリープはずっと若い印象なので、1979年で30歳ってなんだか感覚がバグってくる。駆け出しとは思えない貫禄がすでについていて凄い。ダスティン・ホフマンは『レインマン』の時と違って、オーソドックスな男を演じたが、仕事や裁判で見せる強い男としての振る舞いと家庭で子供に見せる弱い男としての機微をしっかり表現していて流石だった。
ただ夫婦の線、親子の線が一度切れただけ。それはまだ繋ぎ直せる可能性は十分にある。ラストシーンからはそんな雪解けの希望が感じられた。時間が関係を育てるのだから。彼らに必要なのは再び共に過ごす時間だ。クレイマーVSクレイマーの夫婦間戦争は喧嘩両成敗ということで。妻は外に出ることに目覚め、夫は家で過ごすことに目覚める。どっちも比べようもなく大切なことに気付く。

《愛する人のためだけにお給料も貰わずに働く毎日って大変だろう?どうなんだろう。》
KAN『秋、多摩川にて』
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