現実をイマジネーションが逸脱する瞬間を捉えた映画のシーンがたまらなく好きだ。
カラオケ帰り、ひと気のない駅のホームで、コンジュの想いが溢れて歌い出すシーンで涙した。
子ゾウが部屋に現れるシーンの多幸感。
だって、実際こういう瞬間って、みんな憶えがある。
その瞬間って現実には残らないのだけれど、映画であればそのカタチは明らかになる。映画の力。
凡百のラブストーリーなど及ばない、本当の意味で愛について語った映画。
文字通り体当たりで脳性麻痺の女性を演じたムン・ソリの役者根性も驚異的だが、本当にそういう人だとしか思えないソル・ギョングの実在感も凄い。
1人の男の半生を演じ切った前作ペパーミントキャンディも素晴らしいが、同じ人とは思えない変貌ぶり。
イ・チャンドンの映画の主人公たちは、はじめ観客には訝しく思えるのだが、徐々に誰であろう自分自身に重なっていくものを見出していってしまう。
イ・チャンドン・レトロスペクティブにて。4K版。
