来夢

アモーレス・ペロスの来夢のレビュー・感想・評価

アモーレス・ペロス(1999年製作の映画)
4.4
大好きなイニャリトゥのデビュー作。
脚本はその後21gとバベルでもタッグを組む、特徴的な群像劇を作るギレルモ・アリアガ。
21gで初めてイニャリトゥの作品を観て、その時感じたイニャリトゥへの期待が確信に変わった。その後バベルを観て、現役で撮ってる監督で1番好きな監督はイニャリトゥですと言うほどに(現在進行形)。
ということで、アモーレス・ぺロス。デビュー作とは思えない凄い作品です。
DVDパッケージの裏ではイニャリトゥを、「メキシコ映画界のクエンティン・タランティーノ」というよくわからないコピーで讃えています。いや、タランティーノも大好きだけど、全然違うだろ。パルプフィクション辺りの雰囲気と似てるってことなのかね。確かに鈍器というか、あさま山荘事件の鉄球で殴られるような圧倒的なパワーがあるって点では同じかもしれないけれども。そして俺はそういう映画がなによりも好きではある。
3組の群像劇で、それぞれ2組~3組が犬、兄弟、愛、不倫、金、親子、暴力という共通項を通して描かれる。
とくに3組に共通したのは「犬」と「くだらない愛憎劇」。映画がくだらないわけではなく、それぞれのキャラの持っている愛憎が(当然本人にしてみればものすごく大切な問題だけれど)はたから見ると自分勝手で実にみっともない。でも愛ってきっとそういうもんだよね。アモーレス・ペロスっていうタイトルが「犬みたいな愛」っていう意味らしい。なるほど。
イニャリトゥの映画はどの作品をみても「日常」部分の作りこみが半端ないので、その地続きに描かれる非日常的な描写も全部社会派ドラマになってしまうのが面白い。今作もそれぞれのキャラクターが抱える物語(問題)は特別珍しいものでもないし、ありふれた題材ではあるんだけれど、そもそも物語は「嘘や欺瞞でできている」っていう前提に対して、自然と心が準備してしまっている壁をぶっ壊してくるから、ありふれた題材であることが逆に恐ろしく見えてくる。まったくモキュメンタリーではないけれど、ドキュメンタリーに近い感覚で観させられているような。
まだデビュー作というところで、バベルやビューティフルほどにクオリティがどうしようもないくらいにヤバいってことはないんだけれど、怪物の誕生を目の当たりにしたというのを肌で感じられる作品であることは間違いないね。
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