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夏時間の庭のakrutmのレビュー・感想・評価

夏時間の庭(2008年製作の映画)
4.1
有名な画家の大叔父から受け継いだ美術品の管理をしていた老齢の母親が亡くなったことで、それらの美術品や大邸宅を相続するか売却するかで悩む3人の子供たちを描いた、オリヴィエ・アサイヤス監督のドラマ映画。

ドラマティックな出来事が起こることはないままに遺産相続の話がかなり淡々と進んでいくので、見る人によってはちょっと退屈に感じるかもしれない。しかし、自分たちが独り立ちするまで暮らした自宅やその生活で空気のように当たり前に存在していた美術品へのノスタルジー、相続税や遺産管理など現実的な問題、現在の経済的な事情との間で揺れ動き、意見の異なる3人の子どもたちの心情がリアルに描かれていて、個人的には好きな作品である。

でも本作の一番の見どころは美術品そのものにある。普通に美術館や展覧会で美術品を鑑賞するだけでは意識することはないが、これらの美術品が個人所蔵からどのように世の中に出ていくかをあらためて実感させてくれる映画である。それもそのはず、本映画はオルセー美術館20周年企画作品として製作されたものであり、オルセー美術館所蔵の実際の美術品(ルイ・マジョレルの机やフェリックス・ブラックモンの花瓶)が撮影に使われている。また、オルセー美術館での展示や裏方の作業シーンもあるので、美術ファンには嬉しい。実際にそれらの家具の展示場でツアー客がさして興味もなく通り過ぎていく姿を、長男夫婦が寂しそうに眺めているシーンが心に残る。確かに、いくら美術的価値の高い家具や工芸品であっても、実際に使用されてこそ本来の姿であるのだろう。

遺産相続の対象者となる3人を演じた、シャルル・ベルリング、ジュリエット・ビノシュ、ジェレミー・レニエの安定した演技も華を添えている。また長男の娘役のアリス・ドゥ・ランクザンは本映画がデビュー作であり、ラストシーンが印象的。
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