ダースポール

運動靴と赤い金魚のダースポールのネタバレレビュー・内容・結末

運動靴と赤い金魚(1997年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


貧しい家庭に暮らす兄妹の物語。

欲しいものがあっても、自分の家が貧乏なのを理解しているから、買って欲しいなんて、親に言えません。たとえそれが生活必需品であっても。
だから、兄妹で力を合わせ、買ってもらわずとも、工夫してしのぐ姿が微笑ましかった。

他にも感じるところの多い映画だったけど、この映画で一番上手いのが結末。
この上もないハッピーエンドなのですが、その一番ハッピーな部分を見せずに、その直前で映画を終わらせているところに技あり。

この後、この兄妹がどれほど喜んだのか?、どれほどの笑顔でお互いを見つめ合ったのか?、その姿を想像させながら終わるところが上手い。
自分はド貧乏な家庭で育ったので、喜ぶ二人の姿が容易に想像でき、まるで自分の事のように嬉しかった。


そんな中、この映画の感想をひと言で述べるなら、、

懐かしい。。。

ただひたすらに懐かしくて、いろんなことを思い出しました。



ズボンの膝が破けたら、そこへワッペンを貼り、繕ってくれた母の姿を思い出しました。
そりゃ、新しいズボンを買って欲しかった。でも、新しいズボンを買ってもらえなかったからこそ知った、健気な母の愛情でした。
直ぐに新品を買ってもらえた人は、この母の愛情を知らない。



「今日はデパートのレストランへご飯を食べに行こう!」と、家族皆んなへ誇らしげに声を掛けていた父の姿を思い出しました。
そりゃ、しょっちゅうレストランへ行きたかったけど、滅多に行けないからこそスペシャルだった。だからこそ、凄く美味しかった。
しょっちゅうレストランへ行っていた人は、きっとあの美味しさを知らない。



姉のお下がりばかり着せられていた妹の姿を思い出しました。
いつも古い服ばかりを着ていたから、たまに買ってもらった自分専用の服を、とても喜んでいました。そして、それを宝物にして、とても大切に扱っていました。
いつも自分専用の服を買ってもらえた人は、この喜びを知らない。



こんなふうに、貧乏だからこそ知った幸せ、貧乏にしか得られない幸せもあるんです。

だからって、別に貧乏が良いと言っているわけではなく、そりゃ裕福に越したことはない。
この映画の家族を見て、「貧乏ってかわいそうだな。。」と思う人も多いと思う。
でも、自分には全くそうは映らず、この家族がとても幸せそうで羨ましく思いました。

なぜなら、経済的に裕福か貧しいか、そんなの関係なくて、どんな状況においても、家族がお互いを思いやって、ひとつでいることが一番大切なんです。

作中で兄妹がとても立派な行動を執ります。それはこの兄妹が、この両親に育てられ、そこで培われた優しさがあってこそ出来た行動なんです。
これは、この家族がひとつである事を物語っていました。

精神面でひとつに繋がっている家族ほど幸せな家族は、他には絶対に無い。
その事をしみじみと実感させられました。


イラン映画が初めて国際的に評価された作品とのことですが、それも伊達じゃない。
これは、理想の家族像が描かれた、完成された素晴らしい映画作品です。


ただ、この映画にひとつだけ難癖つけるのであれば、主人公が代表選手に選ばれた事で、繰り下げ落選した子の痛み。そこだけが気になってしまいました。