ブタブタ

学校のブタブタのレビュー・感想・評価

学校(1993年製作の映画)
5.0
既に10回以上見ている。
映画の「泣ける」ってコピーは大嫌いだけどこれは全宇宙一泣ける映画。
ある夜間中学を舞台にした、それぞれ様々な事情を抱えた個性的な生徒達と教師の交流、人生とは?幸せとは?人は何の為に生きるのか?
を問い掛ける人間叙事詩とも言える傑作である。

「働きながら夜間に通うカズ、中学1年生で不登校になったえり子、不良のみどり、日本の社会になかなか馴染めない中国人の張、焼肉屋を経営するオモニ、脳性麻痺で言葉の不自由な修、そして長年の肉体労働で身体を酷使した競馬好きのイノさんがいた。それぞれに違った環境でそれぞれの悩みを抱えつつ夜間に通う生徒たち(Wikipediaより)」

この映画の舞台は90年代初頭バブル末期、というより既にバブル崩壊直後か。
そしてバブルの恩恵や崩壊とは何の関係もない生活を送る市井の人々。
ちょうどこの頃の自分はセゾン文化の中心地・池袋に足繁く通っていたのでその通り道で王子駅近辺も自転車でよく通った。
王子駅すぐ近くの飛鳥山公園にはスカイラウンジ、通称「飛鳥山タワー」があった頃で映ってる。
この今はもうない王子駅前の風景、ボウリング場が入ったビルの前で実質的主人公「イノさん(田中邦衛)」がたまたま見掛けた医師(大江千里)に「兄さん、俺みたいな人間に字を教えてくれるとこ知らねえか?」と声を掛ける。
そしてこの医師の紹介で夜間中学に通う事になった「イノさん」の生涯で彼にとって唯一とも言っていい教師であり親友となる黒井先生(西田敏行)そして夜間中学の仲間達との触れ合い、そしてその死が描かれる。

自分がいちばん好きな(というか爆笑した)キャラクターは日本人と中国人の混血児で文化大革命を逃れ母親と共に日本にやって来た張(チャン)くん。
この張くんが本当に嫌な奴でたまらない(良い意味で)
田島先生(竹下景子)の口利きでクリーニング工場への就職面接に行くも工場長(坂上二郎)に向かって「給料イクラ?オタク景気ワルイカ?」「ワタシのトモダチイパーイイパーイ給料貰ってるネ」等と無礼な口を聞き就職はお流れに。
何故張くんは日本を、そして日本人を憎むのか?
「二ポーン人(←この言い方がまた腹立つ(笑))アメリカフランス人にアタマ下げるクセに中国人バカにする!(←その通りだ!)トーシャンピーツー○☆!※□◇#△!?(聴き取り不能)」
中川家の礼二さんによる「中国人のモノマネ」を昔TVで見たけどコンプライアンス的に現在では放送不能だと思う。
礼二さんのデタラメ中国語と表面的にはペーこらペーこらしつつ腹の中では明らかに此方をバカにしきってるいやらしい目付きと、自分たちを白人の一員だと勘違いしている思い上がった日本人に対する侮蔑と、グローバル的観点から見たら所詮日本人如き我々の相手では無いと見放した様な冷徹さを感じてゾッとするのと同時に爆笑。
張くんの
「二ポーン人アメリカフランス人にアタマ下げるクセに中国人バカにする!トーシャンピーツー○☆!※□◇#△!?(聴き取り不能)」は中川家・礼二さんの「中国人のモノマネ」にも通じる日本人の卑屈な白人へのコンプレックスと普段は表面に出さない民族差別意識を鋭く抉り出す。

後半は突然のイノさんの訃報から皆がイノさんの思い出を振り返るパートに入りイノさんの悲しく壮絶な生涯が明らかになる。
50近くまで殆ど読み書きが出来なかったイノさん。
「手紙を書こう」の宿題で田島先生にいきなり「ぼくのお嫁さんになってください」等と書いて出してしまうイノさんはもしかすると今迄の人生で女性と全く接する機会がなく田島先生が初恋の人であり童貞だったのかもしれない。
このイノさんの田島先生へのピュアな恋心とその反面競馬好きで酔っ払い親父で黒井先生を通した田島先生からの「(結婚は)ごめんなさい」の返事に対して「テメー田島先生とできてんのか!」と絡んでいく、その余りにみっともなく汚い様は純粋な心も醜い心も共に存在しどちらもその人の真実である、正に「人間」という物を描き出していると思う。
この一件から夜間中学に来なくなったイノさんを黒井先生が訪ねる。
そこには憔悴しきったイノさんが。
イノさんは長年に渡る肉体労働によって身体を蝕まれており既に手遅れであった。
故郷に帰り療養する事になったイノさん。
黒井先生曰く「働き詰めだった彼にとって、この療養生活は漸く得られた安らぎの時」と。

イノさんの死を受けて「幸福」とは何かを語り合う黒井先生とクラスの面々。
カズ(荻原聖人)はイノさんの生涯は不幸の連続であり夜間中学に入れて幸せ、等と本気で思っているなら其れこそ不幸だと語る。
脳性麻痺の修が言う幸せは「金」
韓国人のオモニが言う幸せは「不幸に蓋をして幸せだと頭で勘違いする事」(つまりマトリックス的思考?)
そしてここからミドリ(裕木奈江)のひとり語りが始まる。
リンチ『インランド・エンパイア』のあの場面に匹敵する長台詞と芝居によって最後に全部持っていく裕木奈江。
幸せとは、幸せとは何かと考え其れを追求する事。
つまり生きていく事そのものであるという哲学である(多分)

アル中親父から家出しシンナー中毒の不良娘ミドリ(裕木奈江)
本来、勉強が出来て優等生ながら不登校になってしまったえり子(中江有里)
劇中ではこの二人のカラミはほぼというか全くない。
えり子の相手役は劇中ではカズだけど個人的にはえり子とミドリの百合が見たい(←最低)
因みに中江有里は作家に、裕木奈江はリンチ、イーストウッド作品にも出てる海外で活動する役者に。
それと寅さんが黒井先生の隣の八百屋という豪華キャスト。
どうしてもあの八百屋は寅さんと同一人物に見えて、姿を見せないが存在するおカミさんはリリーさんではないか?と思うとまた泣ける。
ブタブタ

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