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容疑者、ホアキン・フェニックスのPONのレビュー・感想・評価

2.8
壮大な「演技」と「映像」の実験。
*映画そのものは、見なくていい類のものであった。

本作公開後、1年半ぶりにレターマンの番組に出演したホアキンは、このように語っている。「セレブ、業界、それを取り巻くメディアと視聴者を掘り下げたかった」「本当は作り物であり、演技力の低い出演者によって作られるリアリティーショーが『リアル』と謳うだけで、人々に信じられている。もし、高い演技力でそれに臨んでみればどうなるのか見てみたかった」
https://www.youtube.com/watch?v=VucK8XpPvF8

この映画は、セレブのショッキングな引退・転身宣言に対する世間の反応と、それがどのように変化していくのかを検証する実験であった。と同時に、アカデミー賞にノミネートされるほどの「演技」の力、ドキュメンタリーという「映像手法」の力を試すという、2年がかりの、キャリアを棒に振るリスクをかけた、壮大な実験でもあった。

映画そのものは見るに堪えない部分もあり、「いったい何を見せられているんだろう」「映画が終わるまでには、この居心地の悪さやモヤモヤは解消されるだろう」と願うものの、最後までそれは叶うことはない。「これはウソでした」という結末は、この映画には含まれない。

この事件とその後のネタバラシの顛末、それに対するメディアや世間の騒乱が込みで、この映画は成立している。リアルタイムで現地でそれを体感していない人にとっては、片手落ちな映画であり、わざわざ見るまでもないかもしれない。

事件から15年以上経った今においては、壮大なジョークという名の実験に本気になるプロの姿を見られるだけで満足、という奇特な人に向けた映画であると言える。

これを作って実際に劇場公開してしまえる、遊び心と勇気と行動力はとんでもない。それだけは間違いない。
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