Kuuta

日本のいちばん長い日のKuutaのレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(1967年製作の映画)
4.5
東宝35周年記念作にふさわしい豪華大作。シン・ゴジラをきっかけに見てみたが、非常に面白かった。約20分間のアバンタイトルからのテーマ曲に鳥肌。前半は閣議、政府高官や関係省庁のやりとり、会議シーンが矢継ぎ早に繰り返され、激論の末終戦詔書が完成する。合間に陸軍青年将校の畑中中佐や横浜警備隊の佐々木隊長の様子が伏線として入るが、師団長殺害までは本当にじっくりとした、汗のにじむ80分間。中盤の殺害シーンを機に陸軍の暴走が加速し、現実感がどんどんなくなっていく構成は、まさにシン・ゴジラの原型だ。これが実話なんだから恐ろしいが。

死に場所を求め、国体の保持を信じて暴走する畑中や佐々木は、国民の命なんてどうでもいいのだろうなと。畑中をさらに純粋化したのが佐々木。「国体を守るため」、そのためなら天皇の意思もひっくり返すし、天皇を人質にまで取ろうとする。完全に手段と目的が入れ替わっている。自決すれば死んだ人にも、国民にも、申し訳が立つと思っていたのだろうか。
でも彼らに感じてしまうそうした憤りの一方で、特定の歴史教育のもと、そういう国家観で生きてきた以上、彼らはこの道以外にはなかったのかもしれないとも思った。彼らは米国の日本占領=徹底的した隷属だと心から信じていた。敗戦すれば、日本は満州や朝鮮での行為のしっぺ返しを食らうだろうと。戦後のビジョンがあの時点で立たないことに誰の責任もないかも知れないが、未来への絶望もまた、暴走の一因なのかもしれない。

だが岡本監督は彼らの悲しい狂気を描く一方で、兵力を失い冷めきった海軍や、淡々と終戦へ舵を切る鈴木総理にも「国を愛する熱情」があったと、静かに涙を流させる。血が飛び散る演出にこの映画を単なるエンタメにとどまらせたくはない、との意地を感じた。小津映画の代表たる笠智衆演じる鈴木総理と黒沢映画の三船敏郎演じる阿南陸軍相の「いとまごい」シーンは必見。90点。
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