櫻イミト

砂漠の生霊の櫻イミトのレビュー・感想・評価

砂漠の生霊(1930年製作の映画)
4.0
「三人の名付親・THREE GODFATHERS」(原作:ピーター・B・カイン)の初トーキー映画化。「ローマの休日」(1953)のウイリアム・ワイラー監督の初トーキー作品。

クリスマスを控えた西部ニューエルサレムの街。ボブ、ビル、バーブワイヤーの悪漢三人組は銀行で強盗殺人をはたらき金を持って砂漠へ逃走する。熱砂の嵐の中で馬を失いながらも水脈を目指すが途中で遭難にした幌馬車を見つける。覗いてみると女がいて、彼らに産まれたばかりの赤ちゃんをニューエルサレムまで連れて行ってほしいと頼んで息を引き取ってしまう。赤ちゃんをどうするか、意見は分かれるが。。。。

かなり面白かった。大きな話の流れはサイレント時代に流行った”グッド・バッド・マン”ものなのだが、ワイラー監督はシリアスな演出に徹することで原作にあった聖性を本作に落とし込んでいる(新約聖書の“東方の三賢者”の話がモチーフ)。映像も、男が倒れた木の形が十字架だったり聖書の引用が所々に用いられていた。

砂漠のロケーションは「グリード」(1924)と同じカリフォルニア・モハーヴェ砂漠で8月に行われ、気温は50度を超えていたとの事(赤ちゃんは大丈夫だったのだろうか?)。広大な砂漠をロングで捉え、その中に小さく映る三人の姿が絶望的な状況をうまく表していた。この砂漠シーンでは劇伴をまったく使用せず、男たちの渇きと飢餓がよりリアルに伝わってきた。だからこそ、その後の「きよしこの夜」の合唱が心に響く。

ヘイズコード(自主規制)前のプレコード期の作品のため、3人組の様子は悪辣で服もボロボロ。砂漠でさ迷ううちに髭も伸び放題になっていくのがとことんリアル。その分、赤ちゃんが神々しい存在に見えた。

ワイラー監督は本作で業界に認められ、後に「ベン・ハー」(1959)でアカデミー賞史上最多受賞をものにする。同作の聖書モチーフが、すでに本作で萌芽を見せていることを思いながら観るとなおさら感慨深い。

ハリウッド・トーキー初期の隠れた傑作。

■「三人の名付親/The Three Godfathers」(1913)の映画化
1913「The Sheriff's Baby」D・W・グリフィス
1916「The Three Godfathers」エドワード・ル・サン
1919「恵みの光/Marked Men」ジョン・フォード
※ここまでサイレント、全て主演ハリー・ケリー

1929「砂漠の生霊/Hell's Heroes」ウィリアム・ワイラー
1936「地獄への挑戦/The Three Godfathers」
             リチャード・ボレスラウスキー
1948「三人の名付親/Three Godfathers」ジョン・フォード
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