大越

プリピャチの大越のレビュー・感想・評価

プリピャチ(1999年製作の映画)
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3.11

福島県内のJR常磐線富岡-浪江駅間は現在でも不通となっている。該当区間が帰還困難区域に位置するためだ。
代行バスが運行されており鉄道の切符でそのまま乗車できる。一昨年の夏にそのバスに乗ったことがある。

バスの発車の際には窓を開けないことや写真撮影の制限等を厳重に注意された。バスは国道6号線で帰還困難区域内を突っ切っていくからだ。6号線に限り、自動車で通過するのみという条件で帰還困難区域への立ち入りが可能なのだ。
夏休みで乗り鉄が多いというのもあり、満員のバスの中は異様な雰囲気で満ちていた。夕暮れ時の浪江駅前の住宅街には灯りが点いた窓は一つもなく、避難対象区域という事実がグロテスクにバスを包んでくる。窓も開けれない真夏のバスの中で誰も一言も喋らなかった。
駅から少し進み検問所を過ぎると帰還困難区域だ。6号線の路側帯は一時停止が不可能なように全てバリケードで塞がれている。家の駐車場なども同様だ。枝道との交差点にはバリケードと共に必ずマスクをした警備員が立っている。家や店の塞がれた駐車場にはもう木が生え始めていた。
薄暮も過ぎ警備員の持つ誘導灯の赤が目につく。至る所に立つ彼らの赤い灯が窓の外を通り過ぎていく。宵闇の中で中央分離帯と路側帯に連なるチューブライトにも赤い灯が入った。バスは真っ赤に点滅する14kmを走った。この道はただ通過するためだけに存在していた。
まるで戒厳令下であった。警備員と赤いライトに囲まれて停車や進路選択の自由さえ失われた道路。そのような場所が今この瞬間にも東京と地続きのところにあるということ。そしてその事実を東京の生活の中で実感することが一切ないということ。あまりにも衝撃的であった。
常磐線の不通区間は早ければ今年中にも復旧する見込みらしく、公共交通機関で6号線の異常さに触れることができるのもあと残りわずかである。
なぜあのグロテスクな場所が存在しているのか、生まれてしまったのか、つい目を背けてしまいがちだが、見ればわかるのだ。見ようとしないことが問題なのだ。

6号線を走る途中、山の向こうに煌々とした明かりが見えた。福島第一原子力発電所である。
大越

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