大越

オッペンハイマーの大越のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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まずもって、本当に"No Choice"だったのはお前ら科学者ではなくて、8/6の広島と8/9の長崎にいた無数の市民であるってことは叫ばねばならない。

被害者は事実を選択できない。
加害者は事実を選択できる。
被害者は被害を受けた事実が厳然と存在している。加害者は加害した事実に対して疑念を抱ける。
その時点で加害者は優位に立つ。その加害者の特権性をどれだけ理解してんの?とは思う。

いくら証言不可能性の問題があるとしても、被害者をスクリーンの裏側に押し込めるのは納得できない。
作中でオッペンハイマー自身が被害者の映像を直視しているのであるから尚更。

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その上で

前半は光についての映画で、後半は証言についての映画だと理解した。

トリニティ実験を境にこの映画は二分されるが、それぞれの中で様々な演出法がシーンごとに試みられている。時系列的にもあまりにもtwistedな物語で、相当難しいことをやってはいる。

だがインターステラーのそれ(地球パート,宇宙船パート,5次元パートの三分割)とは異なり、前後半でシーンごとの情報量に差異が無いという福田の指摘は重要なように思う。それによってtwistedな物語が全体としてのまとまりが出ている。

あと、結構面白い仕掛けだと思ったのが、前半部分の「史実」シーンの目撃者となった私たち鑑賞客自身が、証人(もしくはジャッジ)となって後半の証言パートに臨まなければならないという構造。

でも結局アインシュタインとの会話を最後に明かしてしまうところが、ノーランの大衆作家としての限界かもとも思う。
大越

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