半兵衛

マダムと泥棒の半兵衛のレビュー・感想・評価

マダムと泥棒(1955年製作の映画)
4.0
この作品は年齢を重ねるごとに面白さが増加しているのだが一体何故なのだろう、アダルトテイストのコメディが大人になって理解できたのかイギリスの名優たちの渋い演技を理解できるようになったからなのかしら。

犯罪パートは思いっきりシリアスでハードだしアレック・ギネスをはじめとする犯罪者たちはいかにも犯罪映画に出てきそうな面子なのに、マダム演じるケティ・ジョンソンののんびりとした風情とのほほんとした素人っぽい喋り方が犯罪者たちのリズムを徐々に崩してコミカルな挙動や言動をしまくるのが笑えてくる。

シナリオの構成も見事で、おばあさんマダムと犯罪者という二つのドラマが徐々に一体化し、中盤マダムを利用しての強盗計画につながっていくのが見事。そして数々の危機を乗り越えてやっと成功と思いきや、とんでもない事態が発生し犯罪者グループとマダムに波乱が巻き起こる巧みなシナリオに唸る。あと数々の伏線が後半に生かされていく様はまさにシナリオの教科書といえる理想的な語り口。

ラストでの犯罪者グループによるいさかい、それがこじれての殺し合いは陰影を生かした照明やカメラといい正に硬派な犯罪映画なのに、行き違いや勘違いなどやってることはコミカルなのでブラックな笑いが込み上げてくる。ちなみに後年コーエン兄弟がこの作品をリメイクしているが、確かに後半のハードなのにコミカルな展開を見ているとコーエン作品のテイストを感じさせる。

犯罪の中心人物に心ならずもなってしまったのに、殺し合いの蚊帳の外に置かれたマダムの皮肉な結末がいかにもイギリス流コメディらしい味わい。

どんなお笑いの突っ込みや漫画のギャグよりも完璧なタイミングでもたらされるアレック・ギネスの死に様が最高。

個性的なベテラン俳優たちに押されてあまり目立っていない若いピーター・セラーズに、名優にもこんな時代があったのかと思いを馳せる。
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