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ALWAYS 三丁目の夕日のKuutaのレビュー・感想・評価

ALWAYS 三丁目の夕日(2005年製作の映画)
2.8
山崎貴と向き合う①

11月公開の新作ゴジラのビジュアルが発表された。もしかして面白いのでは、と少しだけ期待している。山崎貴の映画はデビュー作の「ジュブナイル」を劇場で観て以来、一本も観たことがない。とりあえず三丁目の夕日から遡ってみる。

山崎貴が手がけた西武園ゆうえんちの「ゴジラ・ザ・ライド」は大変評判が良い。今作も方向性は近く、日本を取り戻す歴史修正映画というよりは、鑑賞者の昭和の記憶を呼び覚ます「体験型アトラクション」と言える。

ただ、昭和を知らない私としては、過去の映画を通して当時の空気をイメージしており、あの時代の映画文法を無視して、パンしたり寄ったり揺れたりするカメラによって、私の「昭和」への没入は相当損なわれてしまった。

ワンカット長回し風のオープニング。少年がおもちゃの飛行機を飛ばし、カメラがパンしていくと昭和の街並みが広がり、作りかけの東京タワーにタイトルが重なる。

なるほど、CGとセットの組み合わせで、虚実入り混じったテーマパークに入っていく感覚は味わえる。東大出の小説家くずれと、町工場の自動車修理工が向かいに住んでいて仲が悪い設定(原作通り?)からして記号化が極まっている。黒沢清「回路」を連想させる、上野駅構内の人の造形。眠っている子供がシュークリームに気づくかどうかのくだりも、どこか不気味だ。

終盤の「泣かせどころ」では、茶川(吉岡秀隆)が子供を追いかけ、走って転ぶ、茶川の髪型は爆発する、子供の名前を叫ぶ、なぜか子供が立っている、お前はあの家で暮らす方がいい云々のテンプレやりとりから抱擁、号泣、髪型は自然に戻る。記号に次ぐ記号のエクストリーム映像体験。

あらゆるものが人工感ありありなので、現実の「物や人」が撮影で繋がっていく映画的な緊張や興奮はない。ゴジラのような怪獣映画で同じことをやってしまうと、酷いことになりそうで心配だ。

・結構暴力的。力道山の中継に三丁目の住人が熱狂する場面、小綺麗な世界で抑圧された暴力を爆発させる、ちょっとヤバいお祭りに見えた。

・「大変な時代なのに子供を育てている」ことを免罪符に、大人にとって都合の良い子供が描かれているように見える。ここが一番気になった。鈴木父(堤真一)が六ちゃん(堀北真希)に勘違いしていた場面と、茶川がテレビを壊した場面、大人のミスを子供も一緒に謝る場面が繰り返される。
茶川が子供のアイデアをパクって小説を書いたのに、子供は泣いて喜ぶ。茶川はその反応をそのまま受け止めて良いのか?

・「幸せな家族」は出てこない。鈴木家と六ちゃんの関係、他のキャラクターも他人同士が擬似家族となっていく展開が基本。もっとコテコテの血縁話かと思っていた。

・冷蔵庫が届いた日に複雑な表情を見せる氷屋や、医者の帰宅シーンのような要素がもう少し欲しかった。蓮實も泣いた、誰もいない家と真っ暗な廊下はホラー染みていて確かに良かった。

・評判のいい、ヒロミ(小雪)に茶川が指輪を渡すシーン。決意する茶川の顔の寄りは驚くほど現代風の撮り方。茶川が言わんとすることに気づき、ヒロミが客席からカウンター側へ回って距離を取る=客と店員の関係に戻ろうとする心理をワンアクションで示すのは上手い。川島雄三のようだと一瞬思った。見えない指輪を見ながら涙をこぼして「綺麗」も悪くないが、受ける茶川への無粋な切り返しで台無し。

・オムニバス形式で季節ごとに何か起きて、良い感じにまとまる、を繰り返す。話の原動力はテレビや冷蔵庫が家に来るとか、クリスマスプレゼントをどうするかとかなので、脈絡はなく、単調に感じられる。

話がつまらないから役者を見るのだが、皆さん記号に徹してギャーギャー騒いでいらっしゃるので、かなりしんどい。茶川が怒りに任せて部屋を荒らす場面は流石に…。
ただ、医者を演じた三浦友和は異彩を放っていた。この時代の映画を意識した棒読みセリフで、感情を隠し切った男を演じている。また堀北真希を久々に見たが、どうしたんだってくらいかわいかった。
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