ryosuke

福祉のryosukeのレビュー・感想・評価

福祉(1975年製作の映画)
3.8
いやあこの職場は戦場だな...
最初から最後まで同じようなどうにもならないやり取りを見せられてゲッソリするのだが、彼らのやり取りにはかなり迫力がある。
電車賃や今日の食費にも困っている生活困窮者たちの焼け付くような焦燥感、苛立ちがしっかり捉えられている。
そうはいっても福祉局の職員たちも規定の中でやれることをやっているだけであり、彼らが悪役というわけでもないように見える。大抵両者の言い争いは不毛な平行線を辿る。
生活困窮者達は行き場のない憤りを職員にぶつけ、職員も法律に従うしかない自分たちに怒りが向けられることへの理不尽に苛立ちを隠せない。両者のやり取りは次第にヒートアップしていく。
福祉局、社会保障局、裁判所間でのたらい回しや、審査が通るまでの期間どう過ごすのか、制度に対して無知な生活困窮者たちが指摘される書類の不備等々の問題が描かれるのだが、規定に従うしかない職員たちには全てどうしようもない問題であり、こちらももどかしさを感じることになる。
現場のどうにもならないせめぎ合いを延々と映し出す中で、当事者には如何ともし難いシステムや制度の問題点が浮かび上がってくる
職員のおじさんにどうやら同僚に軽視されている人がおり、まだ喋っているのにそっぽを向かれて遠ざかられていたのが気になった。
来訪者達はとにかくみんなキャラが濃い。
11年刑務所に入っていたというおじさんが出てきて、随分重罪だな、罪状は何かと思えば殺人。
支援が受けられなければ首吊りするしかないと語るおじさん。カメラ目線で人は死んだら永遠に土に埋まるんだとか語るのでゾッとする。
チョコバーを盗んでなんとか凌いでいるおじさんはどうやらインテリであるらしく「ゴドーを待ちながら」なんかに引っ掛けて文句を言ったりする。長年国のために働いてきたにも関わらず入院によってクビになり、碌に援助も受けられないと嘆く姿が切ない。彼がベンチに座って神に向かって一人ごとを言い始めるのだが、カメラを引くと横に座っているおばさんが困惑しているというカットがあって笑ってしまう。ここらへんはワイズマンっぽいユーモアセンス。
やはり一番印象的なのは気合の入ったレイシストのおっさんが黒人警官に絡むシーン。よくカメラの前であんなこと言えるもんだ。話題は双方の戦争体験(彼らが国に仕えたことの証明。黒人警官の方はおそらくベトナム)にまで及ぶ。黒人の台頭で貧乏な白人が割を食っている、黒人を皆殺しにしてやるとまで言って強烈な差別感情を発露させていた癖に、白人は生存のために敵を殺すが黒人は戦争でも偏見から目的として敵を殺すなどと言い始めてひっくり返った。
黒人警官が投げやりに吐いたセリフである、「俺は俺の国ではない国に奉仕している」という言葉が印象に残る。
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