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テルマ&ルイーズ 4Kのryosukeのレビュー・感想・評価

テルマ&ルイーズ 4K(1991年製作の映画)
3.7
 冒頭部の拳銃をバッグに入れる短いカットが、それが必ず発動する時が訪れることを感じさせるのだが、その瞬間は予想より早かった。最初に銃弾が放たれるシチュエーションは、70年代が遠く過ぎ去ってから、主人公を女に置き換えてわざわざニューシネマを作り直した意味がよく分かるものだった。
 主題を強調するために、暴力性に溢れ、あるいは性衝動の抑制ができないクズ男ばかりが登場するのは、同じような主題の『プロミシング・ヤング・ウーマン』等にも引き継がれている。主人公に会ったこともないのに何故か相当同情的で、勝手に観客が抱くべき思いの「代弁者」の役割を果たすハーヴェイ・カイテルの存在も不自然だし、全体的に嘘くさい映画ではある。
 大した物語もないので、車を軸にした運動イメージの絶え間ない連鎖で楽しませて欲しい題材だが、実際にはダルいメロドラマやトラブル、仲違いで一々停滞するので期待した程の疾走感、爽快感はない。明確に語るべき(道徳的な)テーマがあると中々振り切れないのだろうな。
 それでも、自由に向かって疾走するロードムービーに相応しく、自動車の動きで魅せてくれるシーンは数多い。一旦ブラッド・ピットの申し出を断った後、凄い速さでバックしてガソリンスタンド内で急停車する動き。タンクローリーの運転手とのエピソードは、テーマを語らんとする説教が映画から浮き上がってしまいそうになるのだが、とにかく金をかけて爆発させるという映画的決断によってかろうじて映画の論理に帰ってくる。何もない荒野で大量のパトカーに追われる大俯瞰も壮観だ。
 序盤、画面奥に向かって疾走する主人公の車両から一足遅れて、画面右に農薬散布の小型機が滑り込んでくる魅力的なショットがあったが、これを反復するように、今度は画面手前に向かってくる主人公の車両に続いて、画面左、崖の下にヘリが現れる。この反復が終わりの気配をもたらす。二人が景色に見惚れているとヘリが浮かび上がってくる瞬間は分かっていても素晴らしい。
 ラストシーンは、せっかく映画的運動で締めようというのにスローモーションで情緒に流れるのは気に食わないし、旅の始まりに撮った写真が風に飛ばされるのはいいが、終幕後に撮影シーンを振り返ってしまうのは実に客を舐めていると思ってしまう。それでも、彼女らの最後の意思決定のために良い舞台、シチュエーションを整えたとは思う。彼女らにこの決意をさせたのは「グランド・キャニオン」の素晴らしい景色でもあろうが、それ以上に、キスと固く握られた手が象徴する強靭なシスターフッドの絆なのだろう。
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