ryosuke

ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間のryosukeのレビュー・感想・評価

3.8
 デズモンドの捜査を見せる序盤は、ひたすら変人が出てくるゆるっとしたテンポの展開で、あーツイン・ピークスはこうだよなと思いながらダラダラ見ていたのだが、やはりリンチが監督しているだけあって中盤からは濃密になってくる。ツイン・ピークスのテーマが流れ始めた瞬間の安心感。
 ドラマではほとんど見られなかった生前のローラの活躍が拝めるのは嬉しい。ハロルドに対し、鬼気迫る表情でボブの恐怖を訴える顔から始まって、ドラマではあまり分からなかったシェリル・リーという役者の凄みが伝わってきた映画版であった。怯えるローラ、娘に対する態度とは到底思われない、何かに憑かれたように、蛇のように娘に迫るリーランド、金切り声を上げる母親。事件の直前期にはこんな最悪の空気の家庭になっていたのか......。
 突如路上に現れた手招きする老婆と仮面の少年。老婆に手渡された額縁にまつわる演出が凄まじかった。ローラの自室から額縁内の扉へとカメラが侵入していき、ブラック・ロッジへと繋がる瞬間はリンチ的空間接合でテンションが上がる。その上、ローラがまだ生きているにも関わらず、ドラマ版のラストの時点のアニーがベッドに横たわるのだから、時間すら捻じ曲がっているのだ。繋がるはずのない結節点を強引に溶接するリンチ的時空間に目を見張る。
 青と赤の過剰なライトに照らされたシンガーが何故行ってしまったの......などと歌う様子を見て涙を流すローラは、自らの失われつつある善性を惜しんでいるのだろうか。ドラマではあまり描かれていなかったドナとローラの関係の重要性も初めて伝わってきた。下品な男がドナもセットか?と尋ねると、彼女は違うと鋭い叫び声を放つローラ。それに対し、カッと酒を飲み干してみせ、ローラの身を案ずる覚悟を示すドナ。ドナが脱衣しているのを見てショックで白い光に包まれるローラ。ここには美しい友情の瞬間があった。
 やはりリンチにかかると警告の描写もレベルが違う。リンチは自動車の使い方が面白いよな。ゆっくりと歩行器を押しながら歩く老人の前に、丸太を何本も詰んだ大きなトレーラー、リーランドの車、暴走車両の順番に停止する。暴走車両が大きく回り込んでUターンし、運転手がコーンがどうのと怒鳴り散らす。同時に車両のエンジンが焼き切れそうになり、ローラとリーランドのテンションもヒートアップしていく。異常な過剰さ。
 全体的には気楽な脱力感があったドラマ版だが、やはり本来陰惨な物語なのだということが、本作の終盤でひしひしと伝わってくる。自分を犯しているボブが父親に移り変わっているなんて恐ろしいシチュエーションだ。翌朝ローラに拒絶されたレイ・ワイズの奇妙な表情!やはりレイ・ワイズは本シリーズの功労者だな。
 ラストシーン、ローラと叫び声を共鳴させるリーランドの邪悪さ。縛られた二人を追い立てる彼の悪鬼のような顔。「私にやらせないでくれ!」と懇願する彼を見るとき、ドラマ版での悲痛な最期が思い出され、この男が背負った残酷すぎる運命が克明に映し出される。そして、リーランドはブラック・ロッジで重力を失い、ローラの死体は定位置にセットされ、ツイン・ピークスの物語は呪われたスタート地点につく。全てはここから始まったのだ。
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