ryosuke

白熱のryosukeのレビュー・感想・評価

白熱(1949年製作の映画)
3.8
 オープニングが素晴らしかった。カーブを疾走する自動車と汽車の運動感溢れるカッティングの後、打撃で抵抗を試みた車掌が一瞬で射殺され、大胆にも汽車が停止させられる。すかさず汽車の上に飛び降りる男。殴られて運転手が倒れ込むと連鎖反応で蒸気が噴き出す。目にも止まらぬ早さの運動の連鎖がウォルシュの真骨頂だ。中盤以降は会話劇の停滞感もないではないが、それはウォルシュを基準とした場合に過ぎず、やはり滑らかな語り口の良いギャング映画だった。
 ジェームズ・キャグニーはいつものチャーミングな表情を封印し、病んだモンスターとしての姿を見せる。ビッグ・エドを殺害した後、黙りこくって腕を差し出し、妻に腕をとるよう促す瞬間の異様な迫力の目。あるいはファロンが犬だと判明した際の残忍極まりない破顔。流石の存在感だった。
 『ハイ・シエラ』などもそうであったが、ウォルシュは看板や扉に描かれた文字でさっさと説明を終わらせる。状況設定をセリフでやると遅滞するということなのだろう。割り切っている。複数の警察車両による包囲網と老女のカーチェイスなど珍しくて良い。撒いたと確信した瞬間に静かに口角をあげる老女(マーガレット・ワイチャーリイ)。目印の車を見つけてコディを追い詰める捜査官。しかし、コディは車にしまっておいた拳銃を素早く手に取り、手を上げる所作をしながら脇の下から銃弾を放つ。
 自家用機で別の州に移動するというキャグニーのセリフの後に、ドライブインシアターのスクリーンに上昇する飛行機が映し出されて場面展開というカットなど凄いアイデアだな。暗殺未遂シーンも実に良い。カッティングでジリジリと予感が高まり、物体が落下する瞬間にロングショットに切り替えて鋭いアクション。母の死を知らされての発狂もあくまで顔ではなく動きで魅せる。長テーブルの上を暴れ回り、看守を次々にウォルシュ流の俊敏なパンチで殴り倒す。
 転落の物語のラストに相応しいロケーションを提供する工場。催涙弾が運命の煙を滞留させ、コディは入り組んだ空間の中を上へ上へと追い詰められていく。素早く棒を滑り降り、ガスタンクの森へと逃げ込むコディ。探照灯が最期の瞬間のスポットライトになる。コディは、撃たれても死なないというヴァーナの言葉を裏付けるようにゾンビのようなしぶとさを見せつける。ラストのアイデアも素晴らしい。常人離れしたエネルギーと情念を溜め込んだ人間が散るときには爆発が起こらざるを得ない。
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