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福祉のBigsのレビュー・感想・評価

福祉(1975年製作の映画)
4.6
特集上映 フレデリックワイズマンのすべて

ニューヨークのある福祉局にて、支援を求めて訪れる人々と対応する職員のやりとりのみを捉えた167分。

一見ただ淡々と起きた出来事を繋いでるように見えるが、様々な側面の情報を提示していて非常に奥行きのある作品だった。おそらくある程度の期間張り付いて素材を撮り溜めているのだろうが(でも出てくる人たちが同じ空間に居るカットもあるので、意外と数日の撮影だったり?)、編集での取捨選択が考え抜かれてるんだろうと思う。

「福祉」で検索すると、"すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念"と出てくる。映画全体を通して、「福祉」の実情は本当にその理念と合致しているか?と問いかけられているようだった。困窮している人がいるときに、その状況から救うもしくは和らげることができているのか。

福祉に関して色んな側面が見えてくる。
詳細(映画で取り上げられた具体的な事例)は末尾に書きます。
福祉をはじめとする公共のルールを作る側はロジカルにそれを構築していくけど、その支援を受ける側はその細かいルールまで熟知しておらず、ましてや困窮していたり、病気だったりして、論理的な思考・判断もできなかったりする。だから両者は噛み合わないことが多いし、色んな部署をたらい回しにされたり、支援を受けられなかったりする。しかも、その役所側だってそのルールを全て把握してなかったり、間違った判断をすることもあるし、法律だってケースによっては適さない場合もあるから、社会システムだって全く完全無欠ではない。
でもだからといって、職員個人の判断で支援していたら無茶苦茶になっちゃうし、あらゆる人を公平に支援するためには何かルールが必要。どんなに冷酷に見えても決まった期日に規定額までしか渡せないし、然るべき書類で然るべき手続きを踏まないといけない。また、映画内で明確には示されなかったけど、このルールを悪用して本来適用外なのにだまして金銭を受け取ろうとしてくる人も出てくる。なかなか答えの見えない課題。まあ個人的には福祉に対する予算を増やすしかないと思う。だからやっぱりルールを作る人や予算を決める人である政治家を我々が監視してしっかりと選挙で決めていかないといけないと強く思う。これは今の日本も全く他人事ではない。

印象に残ってるのは下記。
・ネイティブアメリカンの人が補助を受けられないと主張。
・妊娠の医師の必要証明は正式書類でなくてもいい。職員でも把握していない場合がある。
・とある夫婦に見える二人が支援を求めて面談を受ける。どうも正直に答えてなさそうで、職員も色々問いただすと二人とも別々に配偶者がいて、どうやら離婚手続きもとっていなさそう。しかも、それを隠そうとして途中から白々しい芝居をうつ。
・養育権を剥奪された母親が子供を返してもらえるよう相談に来るが、ボーイフレンドの犬が危険とか、家が不衛生とかで却下される。家は、これも役所の支援を受けてるようで、不衛生なのをどうにかしたければ、弁護士を雇うように言われる。
・犬を飼ってる男性が何かの申請で数週間家を空ける必要があると言われる。男性の中では犬の優先度の方が高い。
・何処かに電話をかける、精神病を患っていた女性。
・受付にて、fuck等汚い言葉を並べる男性。但し、怒鳴ったりはしていない。
・(前半のラストにくる)金銭的な補助を望む女性。詳細は掴めなかったのだが、病気で入院していたのと、引越ししてしまったので、管轄が福祉局→社会保障局に変わり、補助が一部しか受け取れていないという非常にややこしい状況。異なる部門の役所をたらいまわしにされているが、彼女は家を追い出されてホテル暮らしであり、明日の食べる物にも困る状況。つい最近まで入院していたためか、あまり元気もなく今にも泣きそうな状況で、それでも延々と続く職員とのやりとり。あと、途中でそのやりとりの発端になってる法律を「1937年の◯◯という悪法だ」と言う人もいて、法律的な無欠さも匂わす。
・ボランティアっぽい男性と、支援を受けたい女性の二人組が相談室に現れる。職員はなんでも相談してと言いつつ、今日は帰れ、今すぐお金は渡せないと言う。
・仮保釈中の男性。罪状は殺人罪。
・常駐の黒人警察官(?)に差別的な言動でネチネチと絡み続ける白人のレイシスト親父。黒人は犯罪を犯しやすいから殺した方がいいだのなんだの、言語道断で腹立たしい勝手なことばかり言い続ける。黒人警察官の方は、仕方なく職務として無視せず大人な対応を続けるが、最後には親父は力づくで追い出される。
・金銭的補助が打ち切られた女性について、またボランティア的な人たちが職員に抗議する。彼女が役所の求める書類を提出していたことを主張し、福祉局側の判断に誤りがあったことを認めさせて、打ち切りを撤回させる。
・母親への金銭的補助を求めて、受付に来る黒人女性。この母親はかなり前から福祉局に相談にきていたのに補助が受けられず、娘の方はかなり怒っている。父親の方に小切手等が届いているようだが、その父親は別居(?)&入院していてしかも面会謝絶という、非常に厳しい状況で役所の手続き的にもややこしい。途中、対応した職員が「父親の家の郵便受けから書類を取ればいい」と言ったか、そう解釈したかで、娘がキレて職員に怒鳴るようになる。その内、訪問した娘と母、職員の主任ともっと偉い人で言い合いになる状況に。そこにまたなぜか、全然関係のない男性(ヒスパニック系?)の訪問者も混ざり込み、その人がまた邪魔をする。この展開は職員の「あなたはもう終わったから帰ってください」と言うものの、なかなか帰らず戻ってくるのが笑ってしまった。
・職員の偉い人の所へ金銭的補助を直談判しにくる男性。何か突飛な発明をしたとか言っててちょっとアレな人。自分は◯年国に仕えてきたとか言うけど取り合ってもらえず、待合室に座って「神は何故私を見放すのですか」みたいなことを延々とブツブツ独り言を言う。それ言ってる最中、少しカメラを引くと隣におばさんが座ってて、かなり訝しんでるのを捉えていて、ここも笑ってしまった。意地悪な編集。その一方で、「持つ者は更に富み、持たざる者はより貧しく」みたいなことも言ってて、笑い事ではなく尤もなことだと思うし、一般市民にとって重要なことだとも思う。
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