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悪は存在しないのBigsのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます


舞台は長野県で、離れてはいるけど、田舎が長野なので馴染みのあるような雰囲気だった。

日本の各地にあるような田舎の土地だけれど、それが崇高さや不気味ささえ感じる美しい景色として映し出され、しかし内実はそこに住む人たちの生活と、グランピング事業を始めようとする者たちとのちょっとした対立や関わりというミニマルな話。
今回も期待を超えて面白かった。荘厳で時に幻想的なロケーションと、そこに住む人間を淡々とでも寄り添った撮影の画力。独特のリアリティや鋭さを持ちながら常にスリリングな人間同士のコミュニケーション(会話)。そこはかとなく不穏で、どこか異世界と隣り合わせのような、底知れない何かがあるのではないかという不気味(と言ったら言い過ぎかもしれないが)な雰囲気。普段の日中はよく知る土地・人なんだけど、不意に現れる後ろ姿、飲み込まれるような山道、夜の暗さ、銃声、死骸と、何か自分の理解や認識の範疇を超えたものを相手にしてるような。

個人的には、濱口監督作の物語の面白さは、「他者の他者性(他者は制御不能・予測不能な存在である)を浮かび上がらせ、その上でどうコミュニケーションをしていくか、どのように生きていくか」ということにあると思っている。本作ではある土地に住む人たちの話→他者の登場・対立(グランピング企業との対立)→他者への理解(企業側の人物の人間性を掘り下げ)という順に展開し、他者も人間で色々な事情があると理解を深め、しかしその物語のあまりの座りの良さに若干の居心地悪さを感じていると、終盤に圧倒的な他者(暴力、不条理な展開、そして自然)が現れて終わるという。やはりこれまでの作品同様、他者の他者性の認識が主題になっているように感じた。

題材としてはよくあるような、都会や資本による地方の搾取、それによる対立だが、そのリアリティ(グランピング施設の問題点の具体性(浄化槽、山火事、鹿、管理人、補助金)等)や、人間たちの実在感、視点の独自性(その土地の知恵や論理)で、結果的に新鮮な感触がある。
その土地の考え方としては、開拓は戦後で皆よそ者であり自然も壊してきていて結局はバランスが大事とか、上の者は下の者に影響を与えるのだからそれなりの振る舞いが求められるとか。巧の「もう一度話し合いをしようという提案や、吊し上げたいわけじゃなくしっかり進めれば協力もできる」という冷静な合理性も。
映画から外れるが、この話は、規模や状況は異なるものの、インバウンドにより各地でオーバーツーリズムの問題を抱える現在の日本全体にも当てはまり、偶然にもタイムリーな話題になっていると思う。

カメラワーク・演出の面白さ。
山わさびの位置で覗き込まれるカメラ。だるまさんが転んだの時間が止まったような、背景と異なる時空のような、不思議な横移動。その後、車の後部座席から捉えた会話、そしてそのまま車の移動に合わせて移動する視点。山中の横移動と、山道の凹凸で人間が隠れまた現れる。

やはり、いわゆる普通の演技ではないけど、不思議な実在感があって、更にディテールのリアリティがあり、スリリングなひりひりするコミュニケーションが面白い。その白眉は、グランピングの説明会と、長野に向かう車中の会話。
説明会。川上から川下。バランスが大事。全員よそ者で協力もできる。コロナ支援金。なぜ社長やコンサルがいないのか。ストレスを投げ捨てにくる。浄化槽、山火事への懸念。
車中。投げやりな反応(ここでは笑いが起きてた)。マッチングアプリ。管理人になる。

本作もキャラクターを作り出したことの功績も大きい。巧は、言葉数は少ないが口下手なわけでもなく、抜けてる所もあるけど何か芯の通った強さを感じ、合理的で断言口調だが高圧的でもない会話の不思議さ。超越的な人物で、それは過去作品でも出てきた人物たちにも通じる。
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