めしいらず

鬼畜のめしいらずのレビュー・感想・評価

鬼畜(1978年製作の映画)
4.5
これは本当にタイトルに偽りなしの、胸糞映画どころじゃない真に”鬼畜”映画だ。清張原作の映画化に定評がある野村芳太郎だけれど、その中でも最も強烈な一本だった。男の家に乗り込み、金の切れ目が縁の切れ目と三人の我が子を事もなげに置き去る妾の薄情。押し付けられたその子らに情け容赦なく当たり散らす(子供を持てなかった)妻の冷血。妻の顔色を窺うばかりの夫(父)は唯々諾々。子らはまだ6歳、4歳、1歳半。大人の庇護なく生きられる筈もない。女たちはむろん鬼畜である。だが二人の憤りとて無理からぬ。そもそもほとんどが夫の無責任さに端を発した因果応報の事態なのだから。子らがそれぞれに迎える悲惨な末路。子らは行き先で捨てられそうな気配を敏感に察し、ずっと父の姿を目で追うのが痛ましい。父が誰へとなく一人語りする自身の来し方も悲惨だが、今、自分がされたことを彼がしようとしている。そして崖っぷちの場面の苛烈さと美しい夕景の凄絶な対比。父もとうとう鬼畜に成り果てた。そんな彼に対する息子の最後の態度は、庇いだてだったか、あるいは拒絶であったか。それは観る者に委ねられている。一つだけ言えるとするなら、息子は、娘は、この世に信じられるものが何一つないと心に刻み付けてしまったのだけは確かだろう。彼の行く末にもまた暗雲が垂れ込めている。
妻の凄まじい剣幕と虐待、引くほど怖い表情(寝ている子らに懐中電灯を当て夫に似ているか検分するシーン!とかとか…)がつとに有名であるけれど、撮影時、常に子役に酷薄に接した(監督が指示)岩下志麻の、彼女以外では替えが効かぬどハマりぶりに、子役らが本当に怯えていたのだそう。初めて観たのは中学時分の月曜ロードショーだったか。もうテレビ放映されることはないだろう。実話に材を採った原作の映画化であるのに、厳しい現実を無視するように弱腰な今のテレビの姿勢が歯がゆい。この映画が捉えたリアリティは現実そのものなのに。時代が移っても変わらない人の愚かさ。減衰していくオルゴールの響きの哀しさ。芥川也寸志の音楽も甚だ見事。
再鑑賞。
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