レビュー600本目。500本目を初代ゴジラにしたので、今回はハリウッド版をチョイス。観るのは高校生以来。
前半は原子怪獣現るのリメイク、後半はジュラシックパーク。ゴジラ要素はあくまで資金集めの看板、という印象は拭えない。
登場人物への感情移入を許さない、スーパー淡白な人間描写。人々がモンスターから逃げ惑う様を見る分には、何にも考えずに楽しめる。少なくとも、今作を馬鹿しつつ「これが本当のゴジラだ」と作られた「ゴジラ2000 ミレニアム」よりはまともなクオリティの作品だ。
地球が壊れるほどの大災害を、物凄く小さいスケールで描くのがエメリッヒのバカバカしさであり、良い所でもある。例えば「ゴジラが釣れる」という登場はゴジラの巨大感と日常の対比になっていて、良い方にハマっていたと思う。ゴジラに食われかける大ピンチで、歯と歯茎の間に電気を流す攻撃も新しい。流石のゴジラも痛そうだった。
前半は概ね良かった。
オープニングの劇伴はどこか平成シリーズっぽいが、盛り上がるに連れてコーラスが入り、日本じゃあり得ない程仰々しくなる。なんかハリウッドっぽいぞ！と思って楽しくなった。
最初の船の襲撃シーンもよくまとまっている。唐突な尻尾攻撃も迫力があった。
この船で相撲中継を見ている日本人や、厨房で包丁が落ちてきて間一髪など、どれも本筋に一切絡まないものの、B級映画なりに少しでも画面を面白くしたい創意工夫って感じが微笑ましい。クソ市長はジョーズかな？
先日マイケルベイの「6アンダーグラウンド」を観た時も思ったが、アクションの中にアホなアイデアが詰まっている。画面の派手さを増やすために、市場の魚や氷が四方八方で飛び交う。ゴジラの振動で車の防犯ブザーが一斉に鳴る。放射熱線は出せないので、車をボンボン爆発させる苦肉の策。序盤で飴舐めるか？のフリを入れといて、終盤床に転がった飴玉で転びまくるちびゴジラ達。
ビル街をゴジラと米軍ヘリで追いかけっこするシーンもスピード感があって普通に楽しかった。一仕事終えてビルによじ登るゴジラの前足がかわいらしい。建物に対するサイズ感に文句がある人は、まず84年版を観て欲しい。
後半からはラプトル的なイグアナパニックに移行する。ここで完全に「怪獣映画」ではなくなってしまい、個人的には一気に興味が下がる。「Size Does Matter」がこの映画のキャッチフレーズだが、サイズ感のあるシーンが皆無。大きさじゃなくて数に頼る辺り、ゴジラ単体の魅力を信じ切れないブレを感じる。
ブルックリン橋のワイヤーに絡まって死ぬビジュアルは結構好き。ゴジラ自身がニューヨークの名所を壊すのってこの場面だけ？
エメリッヒは基本的にバカ映画の専門家ではあるが、自身が同性愛者であり「ストーンウォール」を撮った事からも分かるように、マイノリティに対する視点は一応持っている監督である。
今作の主人公は反原発運動家だったが、「体制を内側から変えるため」原子力規制委に入ってチェルノブイリでミミズの研究をしているという設定（ミミズ研究＝閑職という雑な偏見が実にエメリッヒ的）。ヒロインは権力者に搾取されているTV局の下っ端で、弱肉強食のニューヨークで潰れかかっている。
2人は何だかんだあって力を合わせ、誰も信じなかった「ゴジラが卵を産んでいる」というニュースを世界に中継する。一応、弱者が世界の常識をひっくり返す、世界を救う構図になっている。助けてくれるのがアメリカ人でなく、ジャン・レノなのも意図的だろう。
ただ、その後主人公は軍と連携してブルックリン橋にゴジラを誘導するけれど、結局ミサイルでやられた印象ばかりが残る。エンディングからも、マイノリティの達成という雰囲気は見出せない。
原因は、単に主人公のキャラが弱いからだろう。最後に主人公とゴジラが対面するが、何の感慨も浮かんでこない。ドラマの盛り上げが下手なせいで筋肉バカ映画という印象が強くなっている（とりあえず出てきた男女は全員くっつけとけ、みたいな超雑なエンディング）。
「これをゴジラと呼ぶのか！」と怒る人対策なのか、今作でゴジラの名を口にする最初の人物を日本人にしているのはちょっと面白かった。
全く新しい挑戦だったし、殆どの改変は許容範囲に感じたが、ゴジラ誕生をフランスの責任にしている所だけは看過しがたかった。
今作の公開は9.11より前。この頃はアメリカ人も無邪気にNY大破壊を楽しめたのだろう。逆にいえば、今後の新作でゴジラの恐怖や社会性をアメリカ人に伝えるには、9.11風に作るのが一番なのかも、とも思った。震災要素を入れてアップデートに成功したシン・ゴジラみたいに。クローバーフィールドはコンセプトは近いが、かなり変則的だったし。
なので今年公開のvsコング、もしニューヨークに来るのであれば、9.11風のシークエンスがあったら良いなと。日本が舞台になる可能性もあるのかな。65点。
