映画漬廃人伊波興一

GONINの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

GONIN(1995年製作の映画)
4.0
特別な条件が揃えば、新宿の夜のとばりは、行きずりの出会いをあっという間に一蓮托生に変えてしまう
石井隆「GONIN」

常に物情騒然たる危険を孕んだ石井ワールドの住人たちですが
ヤクザから返せるメドの立たぬ借金を抱えたディスコクラブのオーナー佐藤浩市は、あろうことかそのヤクザから現金強奪を決意。
あるいは覚醒剤常習のおかげで、今や過去と現在の境目さえ曖昧になったぼったくりバーの元刑事の用心棒・根津甚八は他でもない自分自身が痛めつけた元妻と愛娘とのやり直しのために強奪計画に加担。
さらに愛する娼婦・横山めぐみと未だに幸せになれないパンチドランカー・椎名桔平は真の幸福を希求する力もなく巻き込まれ、リストラで家族惨殺と言う凶行に走った竹中直人は狂気と紙一重で居直る。
そして美貌と均整の取れた肉体だけが取り柄のような本木雅弘は箒星が軌道に乗ったような疾走。。

誰かの忠告や切なる願いを等閑に付し、良識や真理を失ったこのGONINに通底しているのは皆、新宿の夜によって(明日)が奪われる事。

思えば石井隆はどれだけそんな残酷な夜を描いてきたことか。

それは処女作「天使のはらわた・赤い眩暈」から「GONIN サーガ」まで一貫して変わることなし。

夜の汚濁はそれほど彼らを危局に追い込んでいきます。
バブル期にすっかり取りのぼせてしまった彼らは最低ですが、現在の彼らもどうしようもない。
問題を抱えたまま生きながらえて新たな焦眉の問題を派生させていき、ひたすら堕ちるところ名で堕ちる。

喧嘩相手をバットで殴り、とどめに用意した飛び出しナイフ片手に振り向く本木雅も、
横山めぐみに大金を手渡し、彼女が持っていたメモで身の危険を悟る椎名桔平も、
強奪した中から自分の取り分5千万を抱え、喜々として久しぶりの我が家に帰るも、他ならぬ自分自身が惨殺した家族の亡骸と会話する竹中直人も、
深夜のファミレスでいきなり周囲の客が消えたことでまさに今間近に殺し屋がいることを悟る根津甚八も、
そして何といっても女装した椎名桔平の全身に弾をぶち込み、硝煙の中からゆっくりフェードインするビートたけしと木村一八も。

常に不信の念に囚われ、真偽も分からず、陰であれこれ画策し、やがては腑に落ちない言葉を平気で口走り、著しく意思の疎通を欠き、不釣り合いで無様な愛欲と物欲に身を焦がしながら一蓮托生であっと言う間に砕け散る。
主要人物全員死亡という背徳のカタルシス。