あさ

紅の豚のあさのレビュー・感想・評価

紅の豚(1992年製作の映画)
4.4
何も越えられないよ、駿。
幼稚園児くらいの頃お父さんとジブリのビデオをデッカいブラウン管テレビで見るのが日常だった。何の特別な日でもなく、じゃあ今日はこれ見てから寝ようかと。今思うと物語を咀嚼できないのに、不思議と夢中になれたジブリだけど、『紅の豚』はいつも難しくて。そりゃそう。

久しぶりに見たら場面は沢山覚えているんだけど、感じ方が全然違くて心にズッシリ来た。過去に描かれた、それも1920年代を舞台にしているのに未来を見ているようだった。何も越えられない、のいうのはこの点。今見ると歴史背景も相まって面白い。

恐慌下における働く女たちの描き方も良い。二人のヒロインが最高すぎる。それぞれ強さがあって。とはいえ、強く出るフィオにも「怖い」という感情を素直に出す場面もあって(マジでリンチに遭いかねん)。男の子が「だから女は嫌なんだよ」とさりげなく言う場面でも、フィオがわざわざ言い返さないのはそれが日常茶飯事だし相手が子供なのだなと思ってしまう。総じてリアル…全然いま、現在の景色と大差ない。ただ今はもっと陰湿なだけ。

ポルコが人間、もとい社会、世界を恨んでしまうのも今は理解できる。理解できると言うのも失礼にすら感じるから、過去より少し気持ちが近づいたという感覚の方が近いのかもしれない。豚になったのも全然不思議には思わない。

『君たちは〜』を見た後に見ると、なんかまあこんなに世界を憂いて、でもこの世界の美しさを知っている人がアニメーションというとんでもない才能を持って物語を描いて、伝えて。それがコレだけ大衆に受け、世界で賞を取ったとしてもこんなに社会が変わらないのなら、受け手が変われないのであれば。最後にアレを描くのもビシビシ来るよと思った。でもきっとこの人の物語は沢山の人生を変えている。ありがとうポルコロッソ…。
あさ

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