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ジャック・ドゥミの少年期の一人旅のレビュー・感想・評価

ジャック・ドゥミの少年期(1991年製作の映画)
5.0
アニエス・ヴァルダ監督作。

フランスの映画作家:ジャック・ドゥミの前半生を描いたドラマ。

フランス・ヌーヴェルヴァーグ左岸派の巨匠で日本でもファンの多いジャック・ドゥミ監督の少年期~青年期を、彼が1990年に59歳という若さでこの世を去った翌年に、彼の妻で2019年に90歳で逝去した女性監督:アニエス・ヴァルダが夫の遺志を引き継いで映像化した伝記ドラマで、映画という偉大な作り物に対するジャック・ドゥミの深い愛着に溢れた大傑作であります。

フランスの港町ナントで自動車修理工場を営む父親と髪結いの母親のもと日々を幸せに過ごしている8歳の少年:ジャコ(ジャックの愛称)が、様々な体験や成長の過程で映画の虜となっていく様子を見つめたノスタルジックな伝記ドラマで、ジャック・ドゥミというフランスを代表する映画作家の創造の源泉を紐解いていきます。優しく見守ってくれる母親と少し頑固だが人のいい父親との関わりや、物語の素晴らしさを教えてくれた地元の人形劇と映画館通い、二次大戦勃発に伴う田舎での疎開暮らし、家庭用映写機&カメラを使った自主映画作りへの没頭、父親の反対を押し切ってのパリの映画学校への入学―と主人公ジャコの少年期~青年期を、モノクロとカラーを混在させた鮮烈な映像美の中に再現しています。

長編処女作『ローラ』を始め『天使の入り江』、『シェルブールの雨傘』、『ロシュフォールの恋人たち』(一番のお気に入り)、『ロバと王女』、『モン・パリ』―とジャック・ドゥミ映画のワンシーンの挿入や(彼が作った映画の中に少年時代の心象風景が数多く含まれていることも分かる)、晩年のジャック・ドゥミ本人へのインタビュー映像の挿入が大変感慨深い逸品で、本作品は夫であるジャック・ドゥミに対する妻:アニエス・ヴァルダの愛情と哀悼の結晶であると同時に、数々の名作を世に送り出したジャック・ドゥミという偉大な映画作家の人生とキャリアへの総オマージュとなっています。

蛇足)
ジャコ少年の自宅でのシーンは、ジャック・ドゥミが実際に育った家で撮影されています。
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