アールばあちゃん

サンダカン八番娼館 望郷のアールばあちゃんのレビュー・感想・評価

サンダカン八番娼館 望郷(1974年製作の映画)
4.0
原作は読んでいないが若い時に名画座で一度見た。あー良い映画を見たという記憶だけしか残っておらず、今回BS松竹東映さんの名優シリーズ(栗原小巻)で再見できた。

何といっても田中絹代(北川サキ役)の演技に尽きる。
悲惨な運命にあった上に、1人息子にまで忌み嫌われ、天草に帰れと言われてボロ家に1人で何匹もの猫と暮らしている。もちろん嫁の顔も知らず一度も帰らない息子が送ってくるお金を待ちわび、そのお金で命をつなぐ貧しい生活である。
その中に、からゆきさんの生き残りの聞き語りを目的に、身元を隠した1人の女性(三谷圭子:栗原小巻)が訪れる。
「こんな汚い家によー上がってくれたな」と、とっておきの布団(母の作ってくれた着物をほどきボルネオの綿をつめた)を出してもてなすサキ。
障子を張り替え襖や敷物も新しく入れた時、「美しい~」と腹這いになって子供のように喜ぶサキ。
圭子の身元を知っても「よーこの家に居ってくれた、半月の間嫁と思っていた、身元が知りたいとは思ったが、話していいことなら自分から話すやろし、言えん事には訳があるやろと思とった」とサキ。
思わず「お母さん、ごめんなさい、好意に甘えていて!」と謝り素性を明かす圭子。
圭子の帰り際に、宿泊費として心付けを渡そうとすると「お金じゃなくてもらいたいものがある、手拭いくれんか?その手拭い使う度に(あんたを)思い出すから…」とサキ。思わず泣き出す圭子。
この場面でのやり取りに私は一番泣けた。

サキの少女時代から成年までを演じた高橋洋子、体当たりの演技が当時も評価されていた。あれからしばらくして「雨が好き」という小説で中央公論新人賞をとったと聞いた時は多才な方なんだなと驚いた。その後はそれを監督・脚本・主演で映画も作られたという。

娼館で、おかあさんと頼っていたおキクさんのこと、顔を見ても気づけなかったけど、エンドロールで水の江滝子とわかった。
「天草に帰ってもろくなことがないぞ」と言われてたのに帰ってみたらその通りだった。
お兄さんまでも別人のようになってしまってたのが辛かった。
太平洋戦争前のそんな時代を生きた同じような女性が沢山いた事実を忘れないでいたい。