Masato

ウィッカーマンのMasatoのレビュー・感想・評価

ウィッカーマン(1973年製作の映画)
4.2

魔法使いは生贄にされる

鬱映画特集

鬱ランクD+

ジャンル:カルト宗教ホラー、オカルトダンス・ミュージカル

有名なカルト映画。ニコラスケイジ版のオリジナル元。行方不明の少女を探しにサマーアイル島までやってきた警官が見たものとは…そこには、奇怪な宗教を信じる者たちがいた。というホラー。

鬱度はそこまで高くない。いわゆる不条理ホラーだが、そこまで鑑賞者をイジメてくれない。

ネトフリオリジナルの「アポストル」は完全に本作にインスピレーションを受けている。私も、本作は鑑賞初めてだが、ウィッカーマンやろこれ!と思ってしまったほど。リメイクと言わんばかりに似ている。「Apostle」が好きな人は是非見てほしい。

ただ、アポストルのようなファンタジー要素はなく、スコットランドの土着宗教を信仰しているという点で現実にもありそうな物語。まだキリスト教が根強い1970年代に本作を公開することはものすごく苦労しただろうなと感じさせられる描写。実際、イギリス映画会社が危機にあることも相まって、かなり苦労したらしい。

裸で踊る女たち、貞操観念のない猥褻な行為をする者達、日本における「祭り」のような土着宗教らしい宗教的行為などなど、クリスチャンにとってはショッキングな内容であっただろう。

おそらく、本作は「エクソシスト」と同じく、カウンターカルチャーの恐怖をマジョリティの視点から描いたものであろう。「エクソシスト」は、当時流行っていたヒッピー文化(マリファナ、フリーセックス)に染まっていく子どもの貞操観念の崩壊などを、「悪魔祓い」というエクソシズムなオカルトに置き換えたものとして、当時の子を持つ親の層に突き刺さった。

本作も、カウンターカルチャーのような貞操観念の崩壊が垣間見られる。主人公は敬虔なクリスチャンで、結婚までセックスをしないと誓っていたり、島での異教徒的行為に対してキリスト教の考えを押し付けるなどと、分かりやすくキリスト教vs異教徒の構図を描いていた。カウンターカルチャーの場合、異教徒というより思想というほうが合うが。

つまり、クリスチャンたちが段々と自分とは大きく異なる思想に若者達が変わっていく恐怖を、こうしたカルト宗教ホラーに置き換えて描いたと考察できる。現実の恐怖と隣り合わせに描いているという点で素晴らしいホラー映画。

この場合カウンターカルチャーのメタファーとなるカルト宗教の恐ろしさを感じさせることは当然にある。しかし、今となっては異教徒に対してキリスト教の概念を押し付ける主人公の警官もまた、恐ろしく感じさせる点で、1972年から2019年の47年間の思想の差異の実感は、世界の考え方は大きく変わったなと感じさせられる。

今では、逆にこの映画におけるカルト宗教からの視点でキリスト教を非難する映画が多い。例えばLGBT系の映画とか、マイノリティを描いた映画。「ミスエデュケーション」や「ある少年の告白」とかはそれに該当するのではないか。「レディバード」にも中絶に反対するやつにジョークいうシーンあったし、「スポットライト」なんかも司祭の少年レイプを暴露するとして非難はしていたし。やはり随分とリベラルな時代になったなぁ。良き良き。

映画的にも90分未満で非常に見やすく、だいたい物語の展開は読めるが、ミュージカルになったり、土着宗教を蔑視するわけではないが、イかれてる行為などはショッキングで面白かった。ただ、期待していたほどの映像はなかった。もっとエログロのパーティとかかと思ってたので、少し肩透かし。

少女を捜索するミステリーとしてのプロットも良いし、上記のホラー要素も不気味で良い。シャイニングの豚お面みたいな、お面の不気味さが好き。映画としての完成度はメチャクチャ高いのでオススメ。クリストファーリーが出ている。
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