psychedelia

食人族のpsychedeliaのネタバレレビュー・内容・結末

食人族(1981年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

本作を初めて劇場で鑑賞したことを記念して再レビュー。
随分以前のことだが,新聞(たしか朝日だった)の文化欄に,パンクロック,正確にはロンドンの初期パンクに関する記事が載っていたのを読んだことがある。手元に実物がないので記憶している範囲内でその内容を纏めると,
「ロンドン・パンク・ムーヴメントの生みの親であるマルコム・マクラーレンは,屢々,金儲けのために反体制のポーズを取ったと批判される。しかし,まことしやかに反逆の仮面を被ることで,貧相なアマチュア・ロックバンドを全英チャートの1位にまで上り詰めさせ,そのうえ様々な方法で複数のレコード会社から巨額の利ざやを引き出した,世間を欺くかようなビジネス・スタイルこそが,マルコムの反逆精神の真の意味であった」
下手な日本語で申し訳ないが,ざっとこんなところである。
合法的に世間を騙くらかして金儲けをする。本来相容れぬものでありそうな反逆と金儲けという二つのものが手を結ぶ瞬間には何か言いようのないカタルシスがある。本作の魅力の最たるものはそれだ。『食人族』の魅力は「食人族と文明人,野蛮なのはどっちだ?」などという「言葉」ではない。こんな映画を撮ってしまう人間達のしたたかさと,こんな映画をヒットさせてしまう世界の滑稽さである。倫理観やヒューマニズムなどという脆弱なものでは,この映画の魔力にはとても対抗し得ない。
普通の世界で普通に生活している人間には名前も知られていないような底辺の映画人たちの撮った作品が,世界的巨匠であるスピルバーグの作品と比較出来るほどの興行収入を叩き出したという事実,この事実を以て彼らは世間に反逆している。「どんな理性的な批判を加えようと,お前たちにはこの映画にたった一つの傷さえ付けることはできない」そういう彼らの嘲笑が聞こえてくる。実際,このような題材の表現物は,批判を喰らえば喰らうほど,またその批判の規模が大きければ大きいほど,巨額の金を生む。止める術はない。
表現者というものへの憧れを持つ私は,『食人族』に携わったクリエイター達に強い尊敬の念を持つ。金儲けの映画作りも,ここまで儲ければ藝術を超越する。動機が如何に不純であろうと,本作が示唆するものは人間性の暗部を映す一つの結晶である。「こんな映画を撮る人間が最も野蛮だ」などという揶揄で片付けられるものではない。これを売るのは映画会社だが,買うのは世間である。誰も残酷映画を買わなければ,製作者だって好き好んで撮りはしない。この奇妙な需要と供給は一体なんだ。
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