映画漬廃人伊波興一

レッド・ドラゴン レクター博士の沈黙/刑事グラハム 凍りついた欲望の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

3.8
今から35年前、開花するにはあまりにも早すぎた知性が存在した事を、平成以後生まれの、現在働き盛りの方々はご存知でしょうか?

マイケル・マン
「刑事グラハム/凍りついた欲望」

1980年代半ばイタリアの大御所プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスは二人の(マイケル)監督作を続けざまに製作しました。
ひとつはマイケル・チミノ「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」そしてもうひとつはマイケル・マン「刑事グラハム/凍りついた欲望」

そのマイケル・マン作品、オールタイムアンケートにて、アメリカ映画史上最大のダークヒーローに晴れて(!)選ばれたハンニバル・レクターという架空人物が初めてスクリーンに登場した作品であるのは今や常識ですが、後年の「羊たちの沈黙」でテッド•タリーの脚本にも加担したとされる原作者トマス・ハリスによる悪の彼岸と衒学の渦の中を戯れに生きているかの如き振る舞う人物造形があまりに独創的であったため、マイケル・マンの知性溢れる「刑事グラハム/凍りついた欲望」の真価が霞みがちになっているのはあまりに勿体ない気がします。

「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクターの魅力に異存はありませんが、これは一度唱えてしまえば二度とご利益のない呪文のような危険性を孕み、役者アンソニー・ホプキンスにとっても、監督ジョナサン・デミにとっても、以後有利に働くことない不吉な刻印になりかねないなと、敏感な方なら公開当時から察知出来たと思います。

かくして俳優アンソニーはその後何年もレクター博士からのイメージ脱却に苦労させられ、監督ジョナサンはアカデミー賞受賞監督のジンクスを絵に描いたように鳴かず飛ばずの一途をたどり2017年に作家としてはまだ充分返り咲きを図れるであろう73歳という若さで逝去します。

「刑事グラハム/凍りついた欲望」の素晴らしいのは後年にブレット・ラトナーが醜くリメイクした「レッド・ドラゴン」のように気取ったA級感などさらさらなく、知性的でありながら聡明にB級精神に徹している点。

おかげで大御所ラウレンティスは前作「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」に続き大赤字を食らって超ドケチになったそうです😀😀