Sari

海と毒薬のSariのレビュー・感想・評価

海と毒薬(1986年製作の映画)
3.7
太平洋戦争末期に実際に起こった米軍捕虜に対する生体解剖事件を描いた遠藤周作の同名小説を映画化した問題作。

敗色も濃厚となった昭和20年5月。
九州のF市にも毎晩のように米軍機による空襲が繰り返されていた。医学部の研究生、勝呂と戸田の二人は物資も薬品も揃わぬ状況下でなかば投げやりな毎日を送っていた。そんなある日、二人は教授たちの許に呼び出された。それは、B29の捕虜8名を使った生体解剖実験を手伝えというものだった...。

名古屋シネマテークの最後の日、原一男監督のドキュメンタリー『全身小説家』に続くCINEMA塾では、本作で助監督を務め、手術シーンのウラ話が語られた。因みに『全身小説家』は井上光晴氏に実際に行われた癌の手術を収めた生々しい衝撃の映像である。

本作の手術シーンは、医師による手術の動きを見て研究し、俳優に演技を指導した。劇中の手術シーンで使われているのは人間の皮膚に最も近い豚の皮膚が使われている。血の色の表現では、様々な試行錯誤の末、本物の人血を採用。原一男監督やスタッフが採血し、排水溝に流れる血液が入り混じる水の演出も行った。

そのように本物の人血を使った手術シーンの圧倒的なリアリズムと緊迫感。それを冷静に見つめることが出来るのは、モノクロだからである。戦争における悍ましさや冷酷さ、人間の持つ生々しい感情が、冷ややかなモノクロの世界の中で重厚にうごめき、淡々と調和している様は不気味でさえある。

2023/08/07 U-NEXT
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