Sari

ビラルの世界のSariのレビュー・感想・評価

ビラルの世界(2008年製作の映画)
3.5
インド第3の都市コルカタの貧民街で、目の不自由な両親と暮らす3歳の男児ビラルの日常を追ったドキュメンタリー。

山形国際ドキュメンタリー映画祭2009で、奨励賞とコミュニティシネマ賞の2冠に輝いた。

インドの都市カルカッタで盲目の両親と暮らす、3歳のビラル。
監督はとある病院で怪我の入院中も輝く瞳で笑いかけてくるビラルを知り取材を始めた。明るく自由奔放なビラルに14カ月にわたり密着し、貧しく厳しい生活の中でも生きることの素晴らしさを描き出していく。
生き物が共生し、喧噪こだます路地の四季は精彩を放ち、脈うつように駆けころげるビラルの豊かな世界から目が離せなくなってしまう。
監督が撮影と録音、おそらく編集も全て一人で行っているようだが、キャメラのレンズが汚れたままでも構うことなく撮っていくのである。大雨が降り、水浸しになった外へ転げるように飛び出しては、後ろから追いかける監督に、「おじちゃん、今からずっと撮っていてね!」と言う愛くるしさ。本作はキャメラマンである監督の肌身を常に感じさせるのだ。

ビラルの両親は、ヒンドゥー教とイスラム教という宗教の違いを乗り越えて結婚したが、共に目が不自由なため詐欺にあうなど多くの困難に直面するが、それでも近隣の住民とのつながりを大切にしながら、愛情深くビラルを育てている。

子育て上手の父親の失業、何かと口出す親族に不満な母親、おもらしで部屋を汚すやっかいな弟、ぶったり叱ったりの遠慮なきご近所さん。貧困も病もあるけれど、釜戸では絶えずお鍋が湯気を吹いているという、幸福な家族の一瞬一瞬を見事に捉えている。
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