三樹夫

タクシードライバーの三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

タクシードライバー(1976年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

初めてこの映画を観た時はトラヴィスって俺じゃんとなり落ち込んだ。さすがに初デートでポルノ映画観に行ったり、議員を撃とうとは思わないけど。
この映画よく分からないとかトラヴィスはアイリスを助けて英雄になったとか誤解されることがあるようだか、一言でいえばダメ人間がやけおこしてるだけ。ダメ人間の内面あるあると言えるかもしれない。ダメ人間というよりかは狂人と言った方が正しいのかもしれないが。
この映画を観て主人公が気持ち悪くて無理という感想を持つのは完全に正しい。まさに気持ち悪い男が主人公の映画だ。この映画がよく分からんという感想を持つのは、おそらく自身の中にトラヴィス的な要素が無いためでないかと思うのだが、人間的にはそっちの方が完全に正しい。

トラヴィスのモデルの人物、監督、脚本家はダメ人間で、スコセッシがこの映画がヒットしているか劇場の視察に行ったら観客はどんよりした若者だらけ。挙句の果てにジョディ・フォスターのストーカーしてレーガン撃ったり、大学で銃乱射したりする奴らが出てきたりとこの映画周りはダメ人間のバーゲンセールになっている。

自意識が肥大化して周りの人間を見下して孤独で病んで、大統領候補の狙撃に失敗し、やけっぱちで売春宿に殴りこみかけたらたまたまアイリスが助かった。しかしトラヴィスの本質は何も変わってなくてまた同じようなことをこの男はやるだろうというのがこの映画で、ベトナム戦争とかは特に関係ないみたい。銃の扱いに説得力持たせるとかその程度。
この映画はよくベトナム戦争の後遺症的な語られ方をするが、脚本段階ではトラヴィスはベトナム帰りだったりするものの、オーディオコメンタリーでスコセッシのトラヴィスはベトナム戦争行っていないという解説があったり、スコセッシや脚本のポール・シュレイダーの他作品を観ればベトナム戦争と関係のない主人公がトラヴィスみたいだったりするので、ベトナム戦争の影響でトラヴィスはこうなったと考えない方がよい。そもそも本当にベトナム戦争に行っていたのかも不明。海兵隊にいたって言ってるのに陸軍のジャケット着てたりする。トラヴィスは狂人過ぎて言ってる内容が本当のこと言ってるのかどうかもわからない信用できない語り手になっている。親宛の手紙を見てもわかる通り、その場その場で嘘をついている。

拳銃手に入れた時のトラヴィスのはしゃぎっぷりは笑ってしまう。絶対自分はレベルアップしたとか思っている。
またトラヴィスは劇中ろくにコミュニケーションが取れておらず、ベッツィーへの接し方はキモいの一言しかない。観ていてこれはヤバい奴となる、現実感のある狂いっぷり。
ベッツィー目当てで選挙事務所に通い出したらすぐ感化されて政治に目覚めるも何一つ分かっておらず、分厚い本を小脇に抱えているだけというダメ人間。ちょっと内容を尋ねられれば何も具体的なことは言えない。風俗で説教する典型的なバカとして描かれている。
ダメ人間であればあるほどこの映画はすんなり入ってくるだろう。まあトラヴィスって俺じゃんと落ち込むことになると思うが。ダメ人間リトマス試験紙みたいな映画だ。
三樹夫

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