ジャイロ

狐の呉れた赤ん坊のジャイロのレビュー・感想・評価

狐の呉れた赤ん坊(1945年製作の映画)
4.0
箱根八里は馬でも越すが

越すに越されぬ大井川

江戸時代、東海道の最大の難所、大井川

たまたま観たブラタモリが大井川だったので、ふと川越人足のことを思い出しました。江戸に攻め込まれぬよう、橋を架けることも船を使うことも禁じられ、川越人足の肩や連台に乗って渡る徒渉のみが許されていた大井川。

川越人足とは、長年にわたる厳しい訓練を経て、高度な徒渉技術を身につけた熟練者の集団のことです。幕府から350人までと決められていたにも関わらず、幕末の頃には650人を超えていたといいます。今はもう失われてしまったその徒渉の技術、川渡しの文化に思いを馳せると、なんだかワクワクします。

ずいぶんと昔に、川越人足の映画を観たような気がするんです。白黒だったような気もするけれど、ほとんど思い出せない。なんていう映画だったっけ‥。川越人足の映画を観れば何か思い出せるかもしれない。というわけでこれ


『狐の呉れた赤ん坊』


田村正和のお父さん、苦労人、阪東妻三郎が主役を演じています。いい演技しますね。でも殺陣がちょっと迫力ないかなと思いましたが、この映画の本筋はそこには非ず。人情劇が見どころなんです。

しかし津川雅彦が若い。若いというか当時5歳。7歳の善太役を演じてます。子役時代の幼少期は澤村マサヒコとして活動していたんだとか。よく知る津川雅彦の面影はありません(毒がまったく無い)。

酒に博打に喧嘩に明け暮れる川越人足の寅八の日々。ひょんなことから赤ん坊を育てることになった寅八と、それを取り巻く金谷の宿場の人々による人情劇。なかなかにグッとくるものがありました。

この映画、なんでも『山田洋次監督が選んだ日本の名作100本』のうちの1本でもあるんだそうな。なるほど山田監督ならでは。わかる気がする。

ラストがまたいいですね。今にも落ちてきそうな青い空の下で、心地よい風が吹き抜けていくような、そんな余韻を残してくれる映画でした。インドの巨匠、サタジット・レイのオプー三部作の最後を思い出しましたね。