こたつむり

チャイナタウンのこたつむりのレビュー・感想・評価

チャイナタウン(1974年製作の映画)
3.6
―古ぼけたラジオから流れる曲が部屋を支配する中、俺は紫煙を燻らせながらグラスを振った。氷が叩く音と哀愁を奏でるトランペットが、あの日の記憶を呼び覚ます。そう。耐え忍ぶ嗚咽が胸を焦がし、闇に身を任せたくなった日のことを…。なんてハードボイルドな雰囲気に満ちた作品。

アメリカの探偵はハードボイルドだという先入観。そんな考えが間違っていないと言わんばかりの雰囲気に満ちた映画でありました。うん。格好良いですのう。

もうね。何が格好良いってね。
主演のジャック・ニコルソンですよね。恐怖映画の名作『シャイニング』の印象が強いからか、どうしても悪巧みをしていそうな顔立ちに見えるのですが、本作はそんなこと無し。正統派二枚目が演じたら嫌味になりそうな演技も、どこかコミカルで赦せてしまうのです。

また、物語の構造として。
観客に届けるべき情報を事前に絞っておいた上で、主人公が解説して開示するから、相対的に彼が探偵として有能に見えるのですね。だから、彼が水利権を巡る殺人事件をどのような手法で解決するのか、と自然と前のめりになれるのです。

ただ、その弊害として。
主人公が翻弄される終盤では、説明不足に陥り、彼の選択に妥当性を見つけることが出来ませんでした。しかも、その展開は監督が最も描きたかった部分ということなのですが…。うーん。結末ありきの流れのようで、強引な印象が強かったです。

また、タイトルである『チャイナタウン』の意味も。アメリカから遠く離れた日本に住む者としては直感的に理解しづらく(推測は可能なのですが…現地の感覚は分かりません)そこも残念でした。先ほど言及した物語の着地点も含めて、“1970年代のアメリカ人向け”の作品なのでしょうね。

まあ、そんなわけで。
色々と不満はありましたけれども、ハードボイルドな探偵映画としては良質な作品だと思います。都会の喧騒に疲れたときに、純度の高い酒を胃に流し込みながら鑑賞するのも乙かもしれませんよ…。まあ、酔ってしまったら映画鑑賞にならないかもしれませんが…。

最後に余談として。
本作の存在は『最強ミステリ映画決定戦』というムックで知りましたが、個人的な狭義な定義で言えば、純度の高いミステリだとは思えません。しかし、池の中に証拠品が落ちているとか、部屋の主がいない間に机を調べるとか…。まるでゲームのような(製作年代を考えたら順序は逆ですけど)場面がミステリの味わいを醸し出していました。こういう雰囲気、好きです。
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