このレビューはネタバレを含みます
記憶喪失になってしまった男の話。
映画の冒頭、主人公は暴漢に襲われてしまう。
記憶喪失という設定の為とはいえ、いささかオーバーキル気味で、このまま主人公が死んでしまうのかと心配になってしまった。
兎にも角にも、一命を取り留めた主人公はコンテナに住む一家に助けられ、生活を再建していく。
そこで描かれるのが、冷たい行政と暖かい庶民の対比だ。
名前を忘れてしまった主人公は職安や警察でぞんざいな扱いを受けるのだが、その一方で主人公に親切に接する庶民の優しさが身に染みる。
弱き者達の連帯、助け合いにこそ、希望を見出だす…というのはフィンランド(敗者)3部作に通底するテーマと言えるだろう。
そして、本作のもう1つの見所となるのが、主人公と救世軍の女性とのささやかな恋。
無愛想だった女性が少しずつ男を意識しだすのが微笑ましかったし、コンテナ内でのデートも印象的。
あんなに殺風景だった場所が、こんなにもロマンティックに見えてしまうとは…これもまた映画の魔法なのかもしれない。
カウリスマキ映画の中でも、コメディー色は控え目で、ヒューマンドラマとロマンスが中心となる本作。
笑いよりも、シリアスな作品が好きな人にオススメの作品である。