アキ・カウリスマキのフィルモグラフィの中でも屈指の傑作ではないかと思ってしまう。
最新作『枯れ葉』が彼の映画らしさを詰め込んだ集大成となる傑作だったが、今作『過去のない男』はその源流に近いものを感じる。
暴漢に遭って記憶を失ってしまった男の"生き直し"の話。
明日の生活の保証がない非常に困窮した厳しさが切実に描かれていることは念頭にあるが、なんだか自分の理想だとする人と人の関わりが画面に広がっている気がして嬉しい気持ちにもなる。
訳もわからず孤独感と苛まれてしまう時こそ、自分の周囲には信頼できる人達がいることを思い出そう。
過去のない男の素性が明らかになってから、元々いた場所へ帰っていくシークエンスは白眉。
過去はどうしようもない男だったということは想像に難くない。
そのような過去を彼がどのように受け止めたのか本当のところは分からないけど、その後の行動の一つひとつで、新しく生き直していく覚悟を感じる。
ラストシーン『枯れ葉』だ…この力強さはやはり希望でしかない。
今作に出演しているのもアキの愛犬なのかな？
あまりにも気の利く素晴らしいワンちゃんの名前はチャップリンではなく"ハンニバル"！
音楽への並々ならぬ愛も不変。
［2024年 36本目］
