動きも言葉も少ないが、センスの良い色使いと端正でしっかりした画面構成が魅力のアキ・カウリスマキ監督の「敗者3部作」中の1作。美しい映像に見惚れる。
90年代のフィンランドは91年のソ連邦崩壊により前半に経済的混乱から失業者が増え、国民の間で大きな格差が生じた。そんな時代から零れ落ちてしまった失業者たちを描いたのがこの3部作。
「名前」がないと言う事は国家の管理対象外と言うこと。そのため過去の記憶も身分証もない主人公は国からあっさり見捨てられる。けれど特に落ち込むでもなく、淡々と我が身に起こる出来事を受け入れていく。作品全体がどこか温かな可笑しみに包まれており、港湾に住む貧しい人々や慈善団体「救世軍」に付かず離れず、けれど大いに助けられながら、家を見つけ音楽や料理を楽しみ、恋もする。それが当たり前であるかのように。
貧しくとも救世軍の炊き出しを「ディナー」と称して日々を楽しみ、しゃんとした身なりで向かう姿は、施しを受けようとも自らを卑下してはいない。コンテナに住み仕事が週2回しかなくとも「恵まれている」と言える心の充足がある。それは誰かが手を差し伸べてくれるー 人の「善性」の存在を信じているからだろう。そこに美しい空や水があるように。
フィンランドは国民の幸福度の高い国と言われているが、案外それは彼らの「善性」に依るところなのかも知れないと思った。主人公が国家に庇護されていた過去よりも見捨てられてからの方が幸せそうなのが、印象的。
ところで、
監督は寿司とハワイが好きなのかしらん。所々で挟み込まれるオフビートなユーモアがたまらない。。