ブタブタ

ウディ・アレンの影と霧のブタブタのレビュー・感想・評価

ウディ・アレンの影と霧(1992年製作の映画)
4.5
思えば初ウッディ・アレン。
色々なアーティスト・作家に途轍もない影響を与え、様々な解釈、作品で再現を試みたりしてる「カフカ」のウッディ・アレンによる解釈作品(?)


デヴィッド・リンチ『エレファントマン』と対を成す映画。
同時代のもう1人の怪人である「切り裂きジャック」が姿を見せない主役とも言える映画。

舞台は特定の国ではない時代も定かでない架空の街で、ある夜クラインマン(ウッディ・アレン)は町の「自警団」
によって強引に「絞殺魔」捜査の一員に駆り出される。

寝てる所に突然ズカズカと家内に侵入して来る山高帽に背広の集団の恐怖はユダヤ人であるウッディ・アレンからしたらやはりナチス、秘密警察ゲシュタポの暗喩でしょう。
自警団はクラインマンにある重要な「任務」があると告げるもののそれが何なのかクラインマンに知らされる事はなく、霧の街をアテもなく殺人鬼の恐怖に脅えながら彷徨うしかない。

目覚めた主人公のある一日の体験であると同時に赤ん坊が生まれて死ぬ迄の人生のメタファーである、とのレビューを読んだのですが成程と思いました。

そう思うと、これはアンチミステリーにも見えて夢野久作『ドグラ・マグラ』でも精神病院の一室で目覚めた主人公が同じ一日を延々と繰り返しているのと同様にクラインマンも自警団に叩き起こされ殺人鬼を追ったり追い掛けられたりする悪夢を延々と繰り返しているのかも。

『ドグラ・マグラ』の犯人が「胎児の夢」と始めから提示されているのと同様に「絞殺魔」は映画か始まりわりと直ぐに姿を見せます。
「切り裂きジャック」がその正体がどうというより、疫病や世界を覆う不安みたいなものと化しているのと同様にフランケンシュタインの怪物を思わせる長身の殺人鬼の正体は重要でなくて、クラインマンが体験する不条理な災難と悪夢の冒険、そこに生きる奇妙な人々との出逢いがメインのお話し何でしょう。

エレファントマンの舞台は19世紀末の産業革命時代のロンドンで蒸気が立ち込めるスチームパンク暗黒世界でしたがコチラは「霧」に支配された白い闇の世界。
霧が立ち込める夜に決まって凶行を行う謎の連続殺人鬼「絞殺魔」を追うミステリー・スリラーのカタチを取りながら不条理かつ出口のない迷宮で無力な主人公が右往左往する様はまさにカフカの世界。

自分が大好きなフリッツ・ラング『M』や『カリガリ博士』のドイツ表現主義、カフカ『城』『審判』の不条理小説のウッディ・アレン流映像化作品。

絞殺魔との対決ではサーカスの魔術師と共にマジックで絞殺魔を捕らえるのですがどう見ても魔法にしか見えないし、その魔法すら通じない絞殺魔はやはり「幻想」の存在だったんでしょう。

あとサーカスのピエロはジョン・マルコビッチ、ダンサーにマドンナ、娼館の娼婦の一人がジョディ・フォスターとキャストが妙に豪華です。
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