みんと

潜水服は蝶の夢を見るのみんとのレビュー・感想・評価

潜水服は蝶の夢を見る(2007年製作の映画)
4.0
詩的で印象的な邦題が殊の他マッチしたずっしり重い実話の物語。

雑誌 “ELLE” の編集長ジャンは突然の発作により左目以外は全身麻痺という後遺症に陥る。
彼の左目だけに映し出される世界で切り取られた映像はどれもセンシティブで個性的なもの。儚げで繊細な音楽効果もあって終始どんよりとしたやりきれなさを感じながら静かにゆっくりとストーリーが展開してゆく。

大きく脚色されたイメージはなく、だからと言って平坦なイメージだけでもなく、最後は共感とは別次元で一人の人生の終焉を見届けたかのような感覚になった。

その共感とは程遠い多くのエピソードは、もしかして「生きる」という事はかっこ悪いことの連続でもあり、むしろその方が生きている実感は得られるのかも知れないとさえ思えた。

20万回の左目の瞬きだけで綴られた彼の自伝は記憶と想像力のみで形作られ、その気の遠くなるような作業の連続はまさにジャンにとっての「生きる」という事。

携わった療法士達、妻や子供達、そしてグッとくる父親とのエピソード。言葉として吐き出す事は出来なくてもジャンの心は「生」の煌めきで溢れていたに違いない。

「死」の定義、或いは「生きる」定義迄も覆されるような、そして死生観を大きく揺るがすようなとても意味深い作品だった。
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