ら

長江哀歌(ちょうこうエレジー)のらのレビュー・感想・評価

3.8
三峡ダム建設により、今まさに沈みゆく古都・奉節で暮らす人々の営みを捉えたスケッチのような作品。でありながら、あくまでケレン味たっぷりなところにジャ・ジャンクーの劇映画やアートへの強い信頼を感じる。生活者や労働者の息遣いや匂いまで伝わってくるリアルな映像の中に、突如ロケットのように打ち上がるモニュメント、脈略もなく現れるUFO、高い建物の間を綱渡りする男性、背後で爆破崩壊される建物など、時折非現実的なカットが散りばめられる。

飛んでいくタワーについてジャ・ジャンクーは「住民の移住を記念して市が建てたモニュメントですが、建設途中でお金がなくなり未完成のままです。三峡の美しい風景とあまりにそぐわないので、飛んでいって欲しいと思い、あのようなシーンを作りました」と言う。こういう想像力(創造力)に任せた描写をできるのが劇映画の強みだ。当初はドキュメンタリーになる予定だったが、最終的に水没しゆく奉節を舞台とした劇映画として制作された本作は、人間の想像力(創造力)への信頼とそれがもたらす純粋なエネルギーで溢れている。

まるで山水画のような趣で三峡を映し出す映像に、静謐でエレガントなカメラワーク、こだわり抜かれたショットは息を呑むほど美しい。
ら