撮影監督はコンラッド・ホール。本作の画面づくりはノーマン・ロックウェルの絵の再現と言われたそう。
『ダンガル』のようなコーチものとして見ても面白い。「戦うのは彼らだ」というセリフに一度でも教える側に立ったことのある者なら間違いなく共感できる。
ボビー・フィッシャーというのは伝説のチェスプレーヤー。その輝かしい戦歴とは裏腹に世間から完全に姿を隠している。
序盤でチェスの世界にのめり込んでしまった人、捕まってしまった人たちの境遇を見せる。全米チャンピオンとはいってもどこか世間的には敗残者というイメージがチラつく。
感情が非常に抑えられたドラマで葛藤とか対立とかを正面から描かない。あぁそういうんだろうなと観客に共感させる作り。父は入れ込み過ぎてチェス一辺倒になりかけ、ジョシュの学校も勝手に私立校へ転校させようとした時も、妻は「いけないわ」とただ一言だけ。
基本的にはジョシュはチェスだけにはならずに、子供らしくバスケやサッカーや釣りを楽しみながら、同時にチェスも続けていくというスタンス。
父の方針が挫折する場面も、これはジョシュがわざと格下の相手に負けてしまったからだが、ただただ雨に打たれる父子をうつしだすだけ。
コーチに雇われるブルースは不器用な師だった。ジョシュを鍛えるために、今までのやり方を捨てろと命じる。公園のチェスなんか真似るなと。そして勝つためには相手を軽蔑するんだと非常識な事まで教える。それを見ていた母親からはクビだ出ていけと責められる。まるで丹下段平だ。
だが最後の決勝の舞台に駆けつけ、試合前ちょっとナーバスになっているジョシュに額縁入りの認定証を渡してやる。そして、どこにも行くものかと言って抱きしめる。涙。
試合後、ジョシュは自分と大して年も変わらないチェス仲間のモーガンが父親から負けてしまった事を責められて落ち込んでいるところに、君もボクの年齢になれば分かるさと気の利いた言葉で慰める。
何もかもがあっさりタッチだ。実際の天才少年のまわりもそういうものなのかもしれない。特別なことなど何もない。でも人生の真実をのぞかせる。ただの雰囲気よし作品ではない。確かな撮影、そして演技陣がいるからこその小品でした。
父親にジョー・マンテーニャ。母はジョアン・アレン。
ベン・キングズレーがコーチのブルースを演じる。『シンドラーのリスト』と同年か。
ジョシュに負かされる少年の父には『ファーゴ』のウィリアム・H・メイシー。
公園にいる大きいお友達ヴィニーにローレンス・フィッシュバーン。
ジョシュがフィッシュバーンに再び会いに来たときのあのショットの美しさったら。
⇒撮影がすばらしい映画ベスト級
(2019.6)