くりふ

キング・コングのくりふのレビュー・感想・評価

キング・コング(1933年製作の映画)
4.5
【禁断の果女】

面白くて何度もみてますが、書くとなると、切り口が豊富なので迷います。

制作当時は、刺激的だが単純な冒険活劇を提供したのだと思いますが、結果的に、文化のごった煮をグツグツできる大鍋を誂えちゃった気がします。

時間経ちましたが、劇場でみる機会もあり、勇んで出かけたことがあります。が、吹替えの短縮版で、まず出港前夜がない!子供向けの編集だったのか、コングのアン服剥き剥きカットがない!ムキーッ!肝だろそこぷんすか!…とかえってフラストる結果となり、さらに投稿後回しになりました(笑)。

今みても刺激的、という点から思うところ、書いてみます。これは禁忌を破ろうとする人(猿)と、それが引き起こす破局の話ですよね。禁忌を破るから破局する、という保守的な構造には時代を感じますが、破ろうとする欲望から始まるところが、刺激的ではあると思うのです。

まずヒロインのアンですが、空腹からか、林檎を盗もうとします。禁断の果実を食べようとする、都会のイヴですね(笑)。そして万引きからチャンスを掴む所が面白いですが、果実は食べ逃します。以降、ただ流されるばかりになり、とんでもない羽目に遭いますが、リメイク版と違い、本作でのアンは欲望されるモノと化してしまうんですね。

禁断の果実を盗もうとして、自分が禁断の果実に変じてしまいます(笑)。一人の女性としてはつまらないですが、叫ぶ果実としてはうん、食べたい!

映画監督デナムはもう、禁忌を破ることが仕事みたいな男ですね。そして禁断の果実を運び、それを食べたい男に突きつける蛇男のようです。異文化への敬意など皆無で、異文化での禁忌にも土足で踏み込む。金と名声を求めたのに、それで大変な代償を払うことになるわけですね。

が、私はデナムにそこまでさせるのは、映画に欲望する観客だと思います。

で、コングですが、どうしてそうなったか、出自を考えると面白いですが、異種へ道ならざる欲望を抱き、その禁忌破りにずっと囚われているんですね。で、眼の前にピカピカの、都会から来た禁断の果実をぶら下げられたと(笑)。

野獣が美女に骨抜きにされる、というのが建前ではありますが、実際、コングがアンに、どんな欲望を抱いたのを見つめてみることが、本作のかなりの、刺激的なところでないかと思うんですけどね。

アンは、食べたいのに我慢する果実のようにも、遊ぶ人形のようにも、想い込める入れ物のようにも思えます。彼女をモノ化したことが効いてくる。

が、一目惚れが表でも、種の保存してえ!という本能も抱えているでしょう。でもサイズが違い過ぎ、それは永遠に叶わない。なんと切ないことか(笑)。

で、さて、異境のアダムは禁断の果実を食べられるのか?となるわけですね。

因みに、劇場の大画面でみた時、アンに延ばす、コング最後の指先の、切ない足掻きがとても細かく伝わりました。見事な演技でしたね。

映像作りなど、ディテールの面白さを語り出すとまた、キリがないので、この辺で終わりたいと思いますが、映画の怖いシーンベスト3を出せ、と言われたら、間違いなく入れたいシーンが、本作にはあります。

ホテル高階層の部屋で寝ていたら、人違いで最悪の事態となる女、のところ。見ればわかりますが、ここは、彼女になってみればもの凄い恐怖ですよ。乱暴に起こされたと思ったら、いきなりアレで、ヒューゥゥですからね…。ここは何度見ても恐ろしいです。ちょっと不条理な美しさもありますが。

美女が野獣を殺した、の名セリフですが、デナムのところで書きましたが、一歩下がってみる時、野獣を生み、殺したのは観客の映画欲では、とも思う。

またそこには、異国の男に自国の女を奪われる恐怖、というのも潜んでいて、だから野獣には死んでもらわんと困る、ということもあるのだと思います。

そんなこんなで、あんまりまとまってないですが、汲めども尽きぬ本作の面白さ、その一端をがんばって書いてみました(笑)。とりあえず、こんなところで。

<2013.1.8記>
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