このレビューはネタバレを含みます
RKO制作の中編映画。アマプラで観たけども猛烈に画質が不良。しかもノイズが入ったり、一部数秒間くらいのフィルムの破損(?)があって、ショットが不自然なつながり方をしてる部分がある。著作権切れの映画なのでInternet Archiveでも観られるから。そちらでも確認したりした。
1930年代半ばのRKOはフレッド・アステアを出演させたミュージカル映画を手がけていた。それに比べると、なんという低予算感まる出し映画であることか。
監督はまったく知らない。ものすごく体格がいい(鳩胸すごい)俳優ジョージ・オブライエンはどこかで観たことあるような気がして見てたけど、これを書きながらも、けっきょくぜんぜん思い出せずにいる。
内容は、心優しいんだけれども裏稼業で覆面レスラーをしている若者がいて、父親はその柔和さしか知らない。ひ弱な性格を叩き直すために息子を木こりとして山へ送り込む。そこで同業の伐採業者を陥れようとする悪漢たちと戦い、彼女もゲットする、というシンプルな話。木こりの映画なんか他にあるだろうか。すぐには思いつかないけども。
ラストは主要な登場人物が一か所に集まって結末を迎える。その展開がやや強引。主人公の覆面レスラー設定がまったく生かされないまま終わる。ダンスホールで彼女をとりあい仕込みのやんちゃ男たちと喧嘩するシーンは、なんだかもたもたした編集でダメ。ヒロインの恋心を「上げて落としてまた上げる」っていう大事なシーンだろうに。
木こり集団のなかで木こりのプロフェッショナルになっていく木こりシーンもないし、いつのまにか悪役の木こりの親方は告訴されてて牢屋にぶち込まれちゃってる。そもそも脚本になかったのか、予算だかの都合でそういうシーンはばっさりカットしたのか。そもそもチートスキル持ちだからそんなシーンいらんのじゃね?ということなのか。
映画的な快楽を持続させようという気を感じさせない。
主人公の父(企業家で大金持ち)は息子に闘争心がないと思い込んでいたようだけど、あの分厚い胸板見て、これまでなにも思わんかったんかいと思う。どう考えてもペンギンの研究して毎晩コンサート言ってるような男じゃないだろうJK(扮したジョージ・オブライエンは、若い頃はボクサーとしても活躍していたらしい)。
なんとなくこういう点に精神分析的な見立てを引き入れたい気もするが(伐採=去勢云々)、尺的にも素朴な演出にもプロット優先で余裕のない脚本にも、その余地がない。
父親が息子の持っている闘争心に気がつくのは、息子が女性をライバルととりあって勝利したということを悟るラストシーンのことだ。強引にヒロインにキスしようとする息子を見ての「手は彼女の背中に回せ、バカ者。窒息させる気か」というセリフが小洒落てていい。父親は、ここではじめて彼の腕の太さやバットマンのような胸の筋肉に気がついたのかもしれない。こういうオチは、大昔からハリウッド映画人の職人芸だと思う。
この木こり映画のよさをもうひとつ。アメリカ林業/製材業の猛烈さはわかる。
いくらか記録映像も混ぜてるんだろうけれども、巨木を容赦なく切り倒し、山のなかに張り巡らせたケーブルで吊るし、鉄道に乗せて運び、御柱祭のごとく川だか貯木池だかに投げ落としていく映像は、ぼけぼけ不良画質でも迫力がある。自然に生えたあんな巨木を、日本人は伐ろうと思うだろうか。まずは紙垂つけた注連縄でも回して神主さんにお祓いしてもらわねば、斧を入れる気にはなれないだろうと思う。アメリカまじでやばい。