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カクテルのLCのレビュー・感想・評価

カクテル(1988年製作の映画)
3.3
面白かった。

たぶん主人公は、自分の中に混乱があったんだろうと思う。
兵役はきっと指示されたことが絶対で、ただ厳しい訓練を乗り越えた自信と解放感はあっただろうと推測する。
そんな彼が就職でつまずき、「学歴が要るんだよ」と言われたら、素直に大学に行く。
その大学でも大切に扱われない実感があって、行っても意味ねえ!となる。
そんな状況でも何だかんだ道は続いたわけで、しかもなかなか順調な道に感じられたわけで、彼の中で友人に対する信頼感はとても大きなものだったろうと思う。
それこそ、兵役時代に馴染んだ指示の絶対感と、友人の言葉や考え方を、何となく同一視してても不思議はなかったかもしれない。こうしていれば大丈夫、上手くいく、という灯台的な。

ただ、そんな存在にも裏切られて、また混乱して、何とか見えていた道をそれでも行くんだけど、件の友人が姿を現すと無視することができない。やっぱり彼の言葉に力を感じている。
大人の余裕に見えていたのかもしれないし、何もかも理解できない混乱の中で唯一具体的な言葉に聞こえていたのかもしれない。彼の姿が成功なのだろうな、と刷り込まれていく。
しかし友人は、主人公に「お前眩しいわ、いい男だから俺なんぞに勝ち目はねえなあ」と素直に言うことができないくらい、余裕もへちまもなかったんだけども。

もう一点見受けられるのは、女性に対する距離感。
同じ人間であることに気付いていない節があり、だからこそ「女ってのはこういうもんだ」と言われたら、彼の中にそれを証明するデータも反論に足るデータもないので、素直さ全開にして乏しい知識で接する。結果両者の間にズレが生じる。
しかし、主人公は友人のことも理解できていなかったこと、そして、大人に見えていた友人も自分と同じように手探りしながら生きていた人間であったことを目の当たりにした。
そこで、他の誰でもなく「自分にとって」大切なことを自覚できたわけだけど、その時にやっと好きな相手も「女性」ではなく「自分と同じ人間」という認識を持てたのではないだろうかと思う。

「目の前の相手が持つ背景に想像をめぐらせて接する力が絶望的にない人」を、解像度高めに描いているようにも見える。経験を重ねたり、ハッキリ言葉で伝えてもらえれば、ちゃんと理解できるんだよね。
周りの言葉や幸せそうな表層に惑わされずに、愛する者をまっすぐに見てゆくのだぞ。お前の幸せはお前が責任を持って大切に扱って良いのだから。よろしく頼む。
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