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陰陽師0のLCのレビュー・感想・評価

陰陽師0(2024年製作の映画)
3.6
面白かった。

とてもわかりやすく描いているなあという印象が強い。
たぶん、人によってはオカルト全振りに見えるかも。でも、世界そのものや人間そのものを、彼らなりに体系立てて理解しようとした軌跡でもあるんだよね。
だからこそ、「緑に水をやると木が育ち、それを燃やすと灰になって土に還り」というようなことから「潜在意識と顕在意識」というお話までするわけで。
ちゃんと神道との繋がりを感じられる描写もあったりして、素直に楽しかった。

一応、当時の彼らなりの理屈で政(まつりごと)に関わるので、やっぱり争いごとは避けられない。けれど、痛い描写に耐性がことごとくない私でもガン見できた。恐怖心も刺激されない。クスッとできる瞬間もある。素敵。

私は日本の歴史に明るくない。
とはいえ、きっと自然災害のことを後回しにできない環境は当時も変わらなかったんだろうと想像したりはするわけで、特に台風や地震や津波なんかを予測、阻止したい気持ちは強かったのじゃないかとも思う。
そして、空模様や方角や時間といったものと同時に「占い」の力も合わせることで、いつどこで災厄が起きそうだ、と把握することを試みていたのかもなあと思ったりする。陰陽寮はわかりやすく叡智の象徴、結晶だったんだろう。
その知識や力は人に対しても使える、と考えることは、結構理解しやすい理屈に感じる。
でも、知を極めるより地位や名声を極めたくなるのも人だし、その地位に対して疑問が出ないように「完全」という印象を与えたいのも人だし、素直に信じた結果視野が狭くなるのも人だし、そういうことがそれぞれに見られてやっぱり興味深い。

先程の「緑に水を与えたら木になり」のお話で、私は「金」の部分を Gold だと思ってしまったのだけれど、一緒に鑑賞した人が解説してくれたことで「見ているものを信じたいように信じる」とか、単純に「知識(力)の及ばなさ」も実感して、作中の人たちに親近感を持った。太刀打ちできねえものってある…
解説内容も忘れないうちに記録しておくと、あれは金属という意味で、つまり Gold を意味していなかったんだね。
そして、金属の枠の中で Top の位置にある Gold をそのまま「金」と書き、その位置に及ばないまでも他より「良い」金属を「銀」と書き、金と「同じ」価値を持っていた金属を「銅」と書き、生成過程で他の金属成分を「失う」ことで確立した金属を「鉄」と書き、更に加工の「易性」が特徴とされる金属を「錫」と書くのだと説明してくれた。
漢字苦手勢としては目から鱗だった。ちゃんと成り立ちも理屈立てて見ることができるんだね…!こんな感じだと、私は陰陽寮に入れなかったかもしれないなあ。

人の深層意識に働きかける技術も、それ以外の視点でひとつひとつ事実確認をしていく柔軟な知識体系もあって、養父さんが主人公を推薦する理由がしっかりとわかる。養父さんは天文の博士だっけ、たぶん他の先生たちより位が高いのではないか。天文学を極める人ってことだから。
だからこそ、帝はもしかして人を見る目がちゃんとあったのかな、と見直したりもできる。他者の言葉をきちんと聞いて判断できる、というか。そんな風に見えない印象が強かったから、尚更。ただ、断ったら「じゃあ死んでね」と爽やかに言いそう。帝という位の人なわけだし。
主人公が作中で言う「9割は家鳴りのように説明できる」の、残り1割もしっかり対応できる感も間違いなく強者の貫禄。

主人公に縁のある場所がたくさんあるという理解なのだけれど、確かその中に彼の「失恋」のお話に関係のある場所もあったように思う。
見ていて「こんな感じの人がこの先失恋を経験するんだなあ」と思ったりもしたけれど、しがない役人さんとの交流による変化を目の当たりにすると、何だかちゃんと恋愛できたのかもしれないなと感じられるのもしみじみできた。
しがない役人さん、頭にお花を飾っていて、見目的にも愛着を持ちやすいキャラクターだったなあ。好きな人に、少しでも良い場所で生きてほしかったんだよね。かっこいい。

私だったら、深層意識に働きかけられた時、目の前の幻を打ち破ることができるだろうか。エリートさんたちでも難しかったのだから、私は死んじゃう側の人なのかもしれない。
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