ちろる

ツィゴイネルワイゼンのちろるのレビュー・感想・評価

ツィゴイネルワイゼン(1980年製作の映画)
4.1
現実と幻想が交差する、清順的美学満載の不気味なの強い世界観で、ハッとするような色彩感覚も死体の膣から蟹が出るオープニング映像から脳が掻き回される麻薬ムービー。
サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」のレコードの音色がトリップへの合図のように、あの世への境界線が曖昧にするような難解かつ文学的表現に、ナンジャコリャーってなってしまう一方で世界中のアーチストたちの感覚を刺激するのも理解できる。
つげ義春や、丸尾末広漫画や寺山修司舞台なんかの奔放な世界観が好きな人はきっとハマると思うし、2007年公開の「ユメ十夜」や黒澤明の「夢」を観た時の感覚にも近い。

盲目の若い琵琶奏者、瓜二つの2人の細君、病床の義妹と目玉舐め妻。
原田芳雄演じる野性的で色気のある中砂と藤田敏八演じる真面目な教授の男2人の交流をメインに描きつつも、2人を正当な空間から突き放して、惑わしていくのは結局最初から最後まで謎の女たちである。
私は女でありながらこの作品の中では青地の目線でしかいられなくて、訳の分からない不気味なこの世界にどんどん閉じ込められてしまった。

個人的には琵琶奏者の女が股を開け閉めして琵琶を弾くシーンに、この時代の田舎らしい下世話さがあって好きだけど、連日夕暮れ時に青地家の喪服姿で赤い軒下に立つ大谷直子の妖艶さたるや眼を見張るほど美しく、あの透き通るような白い肌の艶かしさには女の私でもドキドキするエロティックさだった。
大正ロマンを思わせる青地の妻、周子のモダンな服装や、青地宅の洋風インテリアや中砂の書斎は素敵で美的感覚は今見ても実に斬新。

全部を完璧に理解しようとなくていい。考察なんかしようとせずにただ頭をフニャフニャにして、何なら真っ白けにしてから、摩訶不思議な清順マジックに巻き込まれれば思いっきり入り込んで楽しめる作品なんだと思う。
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