ジミーT

ノストラダムスの大予言のジミーTのレビュー・感想・評価

ノストラダムスの大予言(1974年製作の映画)
5.0
この映画が何故失敗したのか、以下の2項目に分けて見てみたいと思います。1点目は「マジメすぎた」、2点目は「公開時期の問題」です。
そして最後に補遺として「この映画の素晴らしい点」を附記致します。

まず、1点目から行きます。

① マジメすぎた

この映画の製作者たちは、公害 食糧危機 核戦争 人口爆発 異常気象などを真剣にとらえ、(当時の)現代人に「今何とかしなかったら近い将来、人類は本当に自滅する。」ということを本気で警告しようとしたのだと思います。だからこその文部省推薦だったのではないでしょうか。
しかし、その危機感があまりに行き過ぎてしまい、映画であるということすら忘れてしまった。例の問題描写も扇情的な見せ場というより、行き過ぎた真剣さの結果だったような気がします。
しかもその「今、警告しなければ」という本気度が強すぎて、本当に警告だけの映画になってしまいました。何だか製作者たちがゼッケンを付けて、横断幕とプラカードを持って、拡声器で訴えかけている姿が見えるようで、映画自体もそういう構造で作られています。これがこの映画の最大の弱点だと私は思います。
むしろもっとハッキリ「人類は自滅する」ということをテーマにして、本当に人類を滅亡させ、地球を吹っ飛ばしてしまった方が映画的には正しく、警告としても優れていたようにさえ思います。(60〜70年代の「猿の惑星」シリーズをご参照ください。)

いや、製作の田中友幸氏だけは心の中では人類を滅亡させ、地球を吹っ飛ばしたかったのかもしれません。何しろ日本列島を沈めたり、それ以前にも「世界大戦争」で世界の主要都市を木っ端微塵にしたりした前科のある人ですから。完成したこの映画を観て頭を抱える田中友幸氏の姿が見えます。(※個人の妄想です。)

② 公開時期の問題

この映画は1974年8月3日に公開されていますが、この前年1973年が凄かった。オイルショックや高度経済成長の終焉で、世の中を終末的雰囲気が覆い、3月には小松左京の「日本沈没」が発売され、映画「ソイレント・グリーン」が話題になり、「終末から」(未読です)などという雑誌も刊行、そして11月にこの映画の原作である五島勉・著「ノストラダムスの大予言 迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日」が発売され、大ベストセラーになりました。本当にいつ人類が滅亡してもおかしくない空気だったんです。

しかし(私の肌感覚も含みますが)1974年になるとこの終末ブームも急速に鎮火していったような感がありました。
更にです。
映画においては1973年末から1974年にかけて、終末や滅亡をもろにぶっとばすような2本の映画が公開されました。そのひとつが「燃えよ!ドラゴン」であり、もうひとつは「エクソシスト」です。あらゆる映画を蹴散らす勢いで、1974年は前半ドラゴン、後半オカルトというような雰囲気になってしまう。
しかも「エクソシスト」の公開は1974年7月13日。「ドラゴン怒りの鉄拳」の公開が1週間後の7月20日。「ノストラダムスの大予言」の公開直前です。これではたまったものではありません。

従って、もしも「ノストラダムスの大予言」が1973年に公開されていたら・・・。受け入れられて「人類への警告を描く近未来SFの傑作」という扱いを受けていたかもしれません。(原作が11月初版発売なので、1973年公開は叶わぬ夢ではあるのですが・・・。)

補遺: この映画の素晴らしい点

すでに複数の方が指摘していますが、冨田勲氏の音楽。これは素晴らしいの一言で、「戦場のメリークリスマス」と並ぶ映画音楽の名曲です。
面白いことに、最初に発売されたサントラLPレコードはA面B面合わせて約60分の組曲形式になっており、映画以上に「ノストラダムスの大予言」を体現した一曲になっています。
人類滅亡を予言したとされる一篇;

1999の年、七の月
空から恐怖の大王が降ってくるだろう
アンゴルモアの大王を復活させるために
その前後の期間、マルスは幸福の名のもとに支配するだろう。(五島勉・訳)

この不吉な詩と人類が滅んだ直後の荒涼とした世界。そしてその日に向かって自滅の道を歩む人類。それでもなおかつ一縷の望みと愛を信じるというイメージが原作も映画も超えて余す所なく表現され、今聞いても「1999年、七の月に人類は滅亡したんじゃないか」と感じさせる力がある大傑作の一曲です。
スコア5.0はこの映画音楽に捧げるものであります。

追伸
このレビューとは関係ないんですが、1974年〜75年頃の新聞広告で、東宝映画の近日公開作品として、次のような映画群が予告されていました。

「透明人間対火焔人間」
「銀河帝国の攻防」(原作・田中光二)
「続・日本沈没」(原作・小松左京)
「ネッシー」
「複合汚染」(原作・有吉佐和子)
「UFO ブルー・クリスマス」

この内「ブルー・クリスマス」は後年実現しましたが、他の予告作は映画化されませんでした。観たかったぞ!期待してたのに!どこかで「一番面白かった映画は実現しなかった映画だ」という名言を聞いたことがありますが、まさにそれを地でゆく映画群です。
(確か田中光二って書いてあったと思いますが、「銀河帝国の攻防」なんていう小説あったかな。)

参考資料

「キネマ旬報 1974年8月上旬号」より
「ノストラダムスの大予言」シナリオと特集

「ノストラダムスの大予言 - 迫りくる1999年七の月、人類滅亡の日」
五島勉・著
1974年2月1日(91版)
祥伝社

「ぼくらの昭和オカルト大百科 70年代オカルトブーム再考」
初見健一・著
2012年
大空出版

オリジナル・サウンドトラックCD
「ノストラダムスの大予言/惑星大戦争」
1991年
ビクター音楽産業

映画の公開時期などはallcinema及びウィキペディアを参考にしました。
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