ジミーT

冬の華のジミーTのレビュー・感想・評価

冬の華(1978年製作の映画)
5.0
映画評論家の町山智浩さんによると、アイドル映画の目的は「アイドルを輝かせること」(注1)。だとしたらこれはもう、高倉健のための究極のアイドル映画です。
それを言えば終わりなのですが、全てが高倉健を輝かせるためのドラマ部分で気がついたことを、当時を思い出しながら書き留めておきます。

1.アイディア

「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」のだそうですが(注2)、東映任俠映画と「あしながおじさん」の組み合わせなんて、どうやったら思いつくのか。しかもこの水と油の組み合わせで、どこまでが水でどこまでが油なのかわからないように構成されているんですね。
東映任俠映画も「あしながおじさん」もファンタジーには違いありませんが、この二要素を結びつけ、観終わった後に「あしながおじさん」でも任俠映画でもない新たな感動を不自然じゃなく呼び起こす。この離れ技的脚本技術はやはりお見事です。

この破天荒な組み合わせに匹敵するのは「三大怪獣地球最大の決戦」における怪獣映画と「ローマの休日」の組み合わせくらいしか思い浮かびません。
倉本聰も関沢新一も天才脚本家だったんですね。

2.チャイコフスキーのピアノコンチェルト

音楽には目に一丁字なしなのですが、この音楽なら耳にしたことくらいはありました。いかにもクラシック。
しかしこの映画を観て以降は、この音楽が聞こえると、ドスを構えた高倉健の姿以外は思い浮かびません。今や高倉健といえばチャイコフスキーのピアノコンチェルトか、町田義人「戦士の休息」。

このように既成の音楽を思わぬ使い方をして、その音楽のイメージを一変させて決定づけてしまう映画はたまにあるものです。私にとってひとつは言うまでもなく「2001年宇宙の旅」における「美しく青きドナウ」。もうひとつは「恋する惑星」における「夢のカリフォルニア」。
「美しく〜」はもはや宇宙船が航行する光景しか思い浮かばず、「夢のカリフォルニア」はもう、香港の雑踏しか思い浮かびません。
この映画もそのひとつです。

「あしながおじさん」と任俠映画という破天荒な組み合わせの橋渡しがこの音楽というのはかなり大胆ではありますが、この音楽を使ったのは大正解としか思えなくなっております。

3.耳につく台詞

「おじさま!おじさまじゃありません?」とか、「オロナミンCばかり飲んで歌えるか」とか、名台詞というわけではないのに、やけに耳に残る台詞も多いのですが、一方で決定的な名台詞(?)がある。
それが、池部良と小池朝雄が繰り返す↓

「そうするよりほか、しょうがねえと思ったンだ。何とか見逃してくれないか。え?お前とは長いつきあいじゃないか。がきがいるンだ。何とかならねえか。」(注3)

もう、一度聞いたら当分は忘れられません。(※個人の感想です。)
これは本作の象徴的な台詞で、これが主人公を苦しめ続ける。物語もこの台詞に収斂してゆくトラウマ的な名台詞として絶大な効果をあげています。

「お前とは長いつきあいじゃないか〜」の元ネタは「ゴッドファーザー」らしいのですが、そちらは全く記憶にございません。はい。

4.ポール・シュレイダー

主人公の、自分が殺してしまった男の遺児に対する贖罪の気持ちというのはわかります。
しかしそれがいささか過剰なくらいに描かれるんですよね。しかもこの贖罪の過剰な描写が、少女に対する性的な興味という方向に行かないように、抑制もきいています。
これは勿論、主演が高倉健ということも大きいのですが、「あしながおじさん」を東映任俠映画の濃〜い世界に拮抗させるためにはこのくらい過剰にしなければならないという計算があったとは思います。
それにしてもこの贖罪の気持ちは、強迫観念というかオブセッションというレベルで、ノンクレジットでポール・シュレイダーが脚本に参加しているんじゃないかと思うくらいでした。

そして高倉健の台詞を必要最小限に抑えているのも絶大な効果をあげている。
このような様々な要素の積み上げで、本作は高倉健という「アイドル(偶像)」をこの上なく輝かせた究極の「アイドル映画」としてその孤高の高みに到達した傑作になりえたのだと思っています。

注1
「町山智浩のアメリカ映画特電」
「『もしドラ』VS『がんばれ!ベアーズ』」
YouTube

注2
「アイデアのつくり方」
ジェームズ・W・ヤング・著
今井茂雄・訳
CCCメディアハウス・刊

注3
「倉本聰コレクション 22 冬の華 ブルー・クリスマス」
倉本聰・著
1984年
理論社

追伸1
私が勝手に師事する映画評論家の故・石上三登志氏はこの映画を評して「『あしながおじさん』とか東映仁俠映画の締めくくりとか言うけれど、これは新しい長谷川伸じゃないスか。」と喝破していました。

追伸2
クロード・チアリの音楽に触れる間がありませんでしたが名曲です。サントラCDが出てないみたいなんですよ。

追伸3
高倉健主演の、これも傑作「ザ・ヤクザ」の脚本がポール・シュレイダーだったし、倉本聰もシュレイダーも東映任俠映画のマニアだというし、シュレイダーは協力してるなというのは私の勝手な妄想。
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