MasaichiYaguchi

愛を読むひとのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

愛を読むひと(2008年製作の映画)
3.7
ベルンハルト・シュリンクのベストセラー小説「朗読者」を、「めぐりあう時間たち」のスタッフが映画化した本作は、第2次世界大戦後のドイツに生きた一組の男女の愛と秘密、そして贖罪を描いていく。
15歳の少年マイケルと21歳年上の女性ハンナとのセンセーショナルな性愛で始まる物語は、数年後、彼女がナチスの戦犯だったという衝撃の事実で思いもかけない方向へ展開していく。
本作のスティーブン・ダルドリー監督と脚本のデビッド・ヘアは、「めぐりあう時間たち」と同じように、時間軸を寸断して、ハンナとの関係に苦悩するマイケルの心情に沿って物語を再構成していく。
過去と現在を行き来する時間が、戦後育ちの青年に突然突きつけられた戦争の影を映し出し、甘い思い出に終わるはずだった恋が、マイケルの人生を苦渋の色に染めていく経緯を浮き彫りにする。
原作者のシュリンクは1944年生まれで、主人公マイケルと同世代であり、戦後の民主主義教育で育ち、青年期になってから、ナチスの軍人だけでなく多くの一般市民もユダヤ人虐殺に関わっていたことを知らされた世代に当たる。
自分の愛する人間、親しい人間たちが過去に犯した罪をどう裁き、受け入れるのかというシュリンクが体験した苦悩が、本作にも大きな影響を与えている。
マイケルはかつて自分が愛したハンナが戦犯であることに衝撃を受けるが、彼女を切り捨てることができない。
だからといって彼女を救うことにもためらいがあり、そのことで罪悪感に囚われて生きていくことになる。
マイケルが抱くこの愛の苦しみは、戦後のドイツだけでなくどの時代のどの国の人間にも当てはまる普遍的なテーマだと思う。