HAYATO

ラストキング・オブ・スコットランドのHAYATOのレビュー・感想・評価

4.1
2024年347本目
気づいた時にはもう遅い
アフリカのウガンダ共和国で、約30万人もの敵対する国民を虐殺したことから「黒いヒトラー」、「アフリカで最も血にまみれた独裁者」と揶揄されたイディ・アミン大統領の実像に迫る社会派サスペンス
1970年代にウガンダで独裁政治を敷いたイディ・アミンが、政権を奪取してから独裁者へとなるまでを、彼に重用される架空のスコットランド人医師の視点で描いた。
1971年。スコットランドの医学校卒業後、高い志を胸にアフリカのウガンダへとやって来た青年・ニコラスは、軍事クーデターによって新大統領となったイディ・アミンの演説を聞き、彼のカリスマ性に強く惹きつけられる。その後、ひょんなことから彼の主治医に抜擢されたニコラスは、アミンと信頼を築きあげ、やがて身内同様の関係を持つに至る。しかし、反対派勢力との絶えない攻防によって、アミンは徐々に疑心暗鬼にかられ…。
原作は、ジャイルズ・フォーデンの小説『スコットランドの黒い王様』。『フォーン・ブース』のフォレスト・ウィテカーがイディ・アミンを熱演し、アカデミー賞やゴールデングローブ賞などこの年の主要映画賞の主演男優賞をほぼ独占。共演に、『X-MEN』シリーズのジェームズ・マカヴォイ、『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』のケリー・ワシントン、『裏切りのサーカス』のサイモン・マクバーニー、『大統領の執事の涙』のデヴィッド・オイェロウォ、『セックス・エデュケーション』のジリアン・アンダーソンらが名を連ね、ドキュメンタリー出身のケヴィン・マクドナルドがメガホンをとった。
歴史的事実にフィクションを絡め、アミン政権下の恐怖を強烈に描いた作品。物語は、冒険心からウガンダに渡った医師・ニコラス・ギャリガンの視点で展開する。彼は当初、カリスマ性にあふれたアミンに魅了され、アミンの側近として特権的な生活を送る。ギャリガンと同様に、アミンのユーモアや温かみのある一面に引き込まれるが、次第にその裏に潜む狂気や暴力が露わになっていく様を目撃することになる。
アミンの暴力的な性質が表面化していくに連れて、物語は徐々にダークで不穏な展開にシフトし、ギャリガン自身がその支配に囚われ、逃げ場を失っていく姿が描かれる。アミンの暴力的な行為、虐殺や粛清、さらには妻の殺害を目の当たりにし、ギャリガンは次第にその独裁政権の恐ろしさを察し始めるが、時すでに遅し。怖すぎる。
本作の最大の見どころは、イディ・アミンの圧倒的なカリスマ性と恐怖感。フォレスト・ウィテカーの演技は、アミンという人物を生き生きと表現しており、当時のウガンダの独裁者の実像を浮かび上がらせている。アミンの陽気で魅力的な側面が、突如として暴力的な狂気に変わる瞬間は鳥肌もので、フォレスト・ウィテカーはこの人物の予測不可能さと冷酷さを見事に体現している。アミンがニコラスとの対話で時折見せる沈黙は、場面の緊張感を一気に高め、観る者に不安と恐怖を植え付ける。
本作のキーパーソンであるギャリガンは、観客がアミン政権下のウガンダを擬似体験するための重要な視点となる。彼は若く、理想主義的な医師として、ウガンダに来る前は純粋な冒険心と献身的な使命感を抱いていたが、次第にその無知さが自らを危険な立場に追い込む。当初、アミンの側近として特権的な立場に甘んじていたギャリガンが、徐々にアミンの暴力的な支配に気づき、自身がその犠牲者となる恐怖に直面する過程はとてもスリリングで恐ろしい。
ラストシーンの決死の脱出劇は、『アルゴ』を彷彿とさせる緊張感。1976年に実際に起きたエールフランス139便ハイジャック事件において、イスラエル国防軍が実行したエンテベ空港奇襲作戦は、いくつか映画化されているみたいなので見てみたくなった。
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