ちろる

酔いどれ天使のちろるのレビュー・感想・評価

酔いどれ天使(1948年製作の映画)
3.9
黒澤明×志村喬×三船敏郎はこの作品から始まった。
口は悪いが人情派の町医者真田を志村喬が演じ、若い三船はとびっきりとんがってるヤクザ松永を演じている。
日本人は昔から本当にこの志村喬のような役柄が好きである。
医療用アルコールをぐびぐび飲んで、ダメダメなアル中に見えて、的確な診察をするそのアンバランスさは今の時代観ても痺れてしまう。
また印象的なのは戦後の焼け野原や闇市の風景、そこに今ではありえないほどの暴力や犯罪、喧嘩がはびこる退廃的な日本の情景に圧倒されながらも、縋るように真田と松永の姿に日本人の持つ人情を探すのだろう。
ちなみに志村喬演じる真田が主人公ではあるが、とにかく三船敏郎の結核に侵されていく演技がすごい。
モノクロ映画でありながらまるで青白い顔が浮き出てくるように病魔に蝕まれていく三船の表情が後戻りできない彼の人生を予言させて苦しくなってしまう。
この作品は戦後の汚れた裏社会が引き寄せる悲劇を描いているが、間に挿入される音楽にも凝っている。
例えば真田の兄貴分である岡田の登場シーンはなんとギターの弾き語り。
(しかもこれが割とうまい)
また、岡田と真田がキャバレーに行くシーンでは歌手の笠置シズ子が登場して圧倒的なパフォーマンスで心を鷲掴みにする。
そんな細かい演出によって暴力と死という暗いテーマである本作がエンタメとして十分に楽しめるように仕上がっているのはまさしく黒澤明監督ならではなのだろう。
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